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ライター業で食えないならキャベツを作ればいいじゃない〜もし後輩ライターに「仕事がなかなか獲れないんです」と相談されたら。

 ーーライターですが、仕事がうまく獲れないんです。どうすればいいですか?

 そう言われたら、あなたならどう答える?

 吹けば飛ぶような底辺ライターのわたしだが、キャリアだけは立派な中堅である。たまーに進路相談っぽい話が来ることもないわけではないのだ。そういうときは「自分だったらどうするかな」と真剣に考えて、できるかぎり誠実に答えることにしている。

 もっとも、先ほどの相談者が「かつてのわたし」だったとしたら、わたしは迷わず言う。ライターなんてさっさとやめちまえ、と。

ライターなんかやるより、高原でキャベツ作った方がよくないか?

 たぶん、わたしは、一般の人よりは文章を書き慣れている方だと思う。ただ、本当に得意なこと。言い換えると、「ライバルである他のライターの大勢が苦手としているのに、自分にはできること」ーーは、ライティングや編集ではないのだ。

 じゃあ、別に、そこまでライターにこだわる必要ないじゃんね?

 例えば、机の上の勉強である。わたしの場合、勉強は好きではないけど、ものすごく苦手ってわけでもない。専業であれば、(さすがに朝から晩までは無理だが)1日8時間はできる。

 そういう人間は、「勉強をそれなりに頑張れる」という自分の持って生まれたギフトに感謝し、それを活かせる道に行った方がいいのだ。世の中、たぶん勉強が嫌いな人の方が多いんだから。

 ちなみに、もし身体が頑健で虫も苦手じゃなかったら、農業法人を立ち上げて、いちごやキャベツを作っていたと思う。天候に振り回される代わり絶対に世の中からなくならない仕事だし、AIが猛威を振るっても安泰だ。そして、何よりライター業より「ビジネス」として美味しい。嬬恋のキャベツ農家は普通に年収1000万いくみたいだし。

 はっきり言って、稼ぎたいだけなら、ライター業を選ぶ必要なんてどこにもないのだ。「ライターでガッツリ稼ごう」「一発逆転して自由な暮らしをしよう」なんてキラキラしたマインド、少なくともわたしは持っていない。だって、底辺だもの。

いくら訊かれてもクソバイスしかできないのには理由があって

 もともとそんな底辺マインドの持ち主である以上、わたしはライター業に関する相談相手としてはおそらく不適格である。

 営業メールの書き方やポートフォリオ、プロフィール文の作り方。本当はそういう話をした方がいいのかもしれないけど、それってコピーライティングやセールスライティング、経営戦略の本あたりを見れば、なんとなくわかってくる話だ。わたしみたいな底辺ライターよりも、書籍を出せるレベルのプロに知恵を借りた方がいいに決まっている。

 書店に行って数万円分、定評のあるビジネス書を買いまくって濫読する。それだけで、一生物の知恵が手に入るのだ。フリーランス向けの微妙な講座・情報商材に手を出したり(本業で稼げている人は情報商材や講座なんて売らないし、その道である程度結果を出している人なら本を出している)、飲み会や配信で先輩方の武勇伝につきあったり(この手の体験談はN=1であることも多いので注意が必要だ)するより、コスパもタイパもはるかにいい。

 「いやーでも本を読むのが嫌いで」という方は、悪いが真面目にライターには向いてないと思う(例外があるのは認める)。活字嫌いの人に、まともな書籍を使ったリサーチができるとは思えないからだ。

 センスには持って生まれた才能の要素もあるが、それに負けないくらいインプット量に比例する部分が大きい。インプットがゴミだと出力するものもゴミになる。ろくなインプットもできないクセに、どうして素晴らしい企画や成果物が出せると思うんだ?

 いや、エッセイストや小説家として大成できるような本物の天才ならいいんですけどね。

 あと、クライアント側の人間、特に大企業にお勤めしているようなビジネスパーソンはそれなりに本を読んでいる可能性が高い。そういう人と会話の前提を合わせるためにも、やっぱり真面目な本は積極的に読んでおくべきだと思う。アイスブレイクのネタも増えるし。

 さて、話を戻そう。

 勉強熱心で読書家のライターはそれだけで有望だ。適切なブックリストを示してあげれば、それなりに成果が出せるはずで、正直わたしのような三流ライターにアドバイスできることはほとんどない。

 だから、この手の「ライターとして仕事が欲しいんですけど」という相談に乗るときに、わたしが重視するのは、1点だけ。

 好きで好きで熱中しているものがあるか(過去も含む)、もしくはたとえノーギャラでも書きたいネタがあるか。

 ここで、「実は○○で博士号取りました」「ブドウが好きすぎて毎日食べ比べして関連文献も漁りまくってます」「マッチングアプリでダメ男を引き当て続けた体験からモラ夫の見分け方について語れます」といった話が出てきたら、聞いているこちらもテンションぶち上がりである。

 こういう人はコンテンツを深掘りする力やプロフィール文の材料も十分そろっているので、応募先さえ間違えなければ何とかなる可能性が高いのだ。しかも必ずしもライター専業にこだわらなくてもよくて、好きなことを活かして本人にとってハッピーな仕事ができるかもしれない。というか、普通にインタビュアーとして話を聞きに行きたい。

 一方、そういった類の偏愛系エピソードが一切出てこなかったら、(多少オブラートに包むものの)わたしはこう言うと思う。

「うーん、普通にバイトするなり就職するなりした方がいいと思うよ」

 これはきっと「ライターとして仕事が欲しい」と悩んでいる後輩にとっては究極のクソバイスだ。

だって、AI様がいるからさ

 2年くらいまで前だったら、もう少しマシなアドバイスができたと思う。

 まず、よく訓練された紙媒体(出版・新聞社)の出身者ならスキルセット的に安泰だったし、Webライティング業界のド底辺……クラウドソーシングスタートのSEOライターの場合も、「ネットにある情報をまとめて作るSEO記事しか書けないと仕事の幅が狭くなりすぎて詰みます。とりあえず自主制作でもいいので取材記事書いて実績作ってください。あと、できれば専門ジャンル作ってください。ああ、悪魔に魂を売れるレベルでお金とマーケティングが好きなら、セールスライティング方面に行ってもいいです」で済んだのである。

 実際わたし自身もそうやって生き残ってきたし、おかげさまでヤフトピに記事が載り、ついでに紙の本も出すことができそうだ(予定)。

 でも、今は生成AIがある。

 実はこの前、ちょっと専門的な内容に関するコンテンツ制作の相談を受けた。

「信義にしたがい誠実に」がモットーのわたしは、正直に言った。

「この内容でしたら、御社の方にテーマを決めてお話いただき、それを文字起こしツールにかけて文字起こし原稿を作成。それをChatGPT4で記事化すれば安く、速く独自性のあるコンテンツを作成できると思います」

 クライアントさんからはお礼の言葉があったものの、それきり返信は途絶えた。

 おそらく「社内でコンテンツ制作を内製化できる」という事実に気づいたのだろう。ライター、失注の瞬間である。

 もちろん本当は取材や編集・仕上げの段階でライターが入った方が良いコンテンツができるため、一応その辺りの提案も合わせて行った。

 でも、それはクライアントによってはオーバースペックになる可能性のある提案だ。特にコンテンツマーケティングをやっていて、大量にコラム記事を用意したいと考えているようなクライアントであれば。

 そこそこ見られるコンテンツがあれば十分というニーズであれば、わざわざ外部のライターに書かせる必要はない。

 というところまで見込んで、わたしはプロとして誠実な回答をしたわけだ。だから、ちゃんとクライアントさんの役にも立てたはず……たぶん。

 よっぽどコンテンツの内容にこだわりがない限り、取材記事ですらライターがいらない時代。その流れが来ているのが、今である。

 そういえば、この間の書籍の打ち合わせをしたとき、担当編集Uさんがぼやいていた。

「出版業界で生成AIを使い始めたら、この業界も終わりだろうなあ……という気がするんですよね」

「でも、近いうちに絶対来ると思いますよ、AI」とわたし。

「時代の流れですからねえ。そしたら、ブックライティングの仕事とか真っ先になくなると思います。本人が喋った音源をAIでまとめる分には、食わせたデータの著作権問題も発生しないし

「うーん、確かに、こういった作業は編集者ができそうですよね」

「だと思います」

 インタビュー・取材のスキルは確かにあった方がいいけど、今はそれがものすごく価値がある技能ってわけでもない。よほどの一流以外は。

 「取材ができれば稼げる・食える」とか「こうすれば仕事が取れる」とか、今その話をするのは正直わたしは無責任だと思う。小手先のスキルを身につけたからどうにかなるなんてレベルの話じゃないんだ。今の状況は。

 ライターなんて仕事は、よほどの情熱と自信と勝算がある人以外はやっちゃだめな時代が来ている。「ノーギャラでも書きたいネタがあり、かつ全方位に器用なAIを凌駕できるだけのパッションと文才を備えた人」でなければ生き残りは難しいし、だからこそ、自分は迷わず大学院に「入牢」した。幸い、法律の勉強がそこまで嫌いじゃなかったので。

 順調にいけば、シャバに帰って来られるのは3年後の予定だ。それくらいの時間があれば、流石にAIによる業界大虐殺も終わり、良い感じに焼け野原が広がっているだろうと思っている。

そうさ、おれもお前も職業ライターなんて辞めちまおうぜ

 実は「職業ライターとしても、なんとかなりそうな人」にも、わたしは就職を薦めることが結構ある。ライター職の採用も探せば結構あるし、もちろん自分の得意なもの・好きなものがあるならそれを活かした業種・職種でもいい。今は紙・Web問わず業界全体が変革期にあるので、何年かどこかの組織に属して様子見するのはありだと思う。

 何より2年間民間でお勤めすれば教育訓練が使える。そうすれば格安でスキルアップのための講座を受けられるし、やる気があればMBAだって取れる。リスキリングするにしても会社員になった方がずっと有利だ。お勤めできるなら、ライター業にこだわらずさっさとお勤めしたほうがいいのである。

 それでも書きたければ、副業あるいは趣味で、「書き手としての自分が最高に輝けるネタ」をマイペースに書いていればいい。

 だから、意識低い系ライターであるわたしは、半ば本気で思っている。

 そうさ、みんなもう、ライターなんて辞めちまおうぜ、と。

 もともと儲からない仕事だし、AI様のおかげで業界の先行きだって暗い。そんなに頑張ってしがみつかなくてもいいじゃないか。

 本当に書きたい人はノーギャラでも書くし、趣味でも書く。「ライター」なんて肩書をわざわざ名乗らなくても、noteやブログをちまちま書いているはずだ。たとえば、わたしやあなたがそうであるように。

 そもそも「文章を書くのが好き」というのは、一種の病気である。「止めろ」と人様に言われても、自分に才能がないとわかっていても書いてしまうものだし、それがカネになるかどうかとか、正直どうでもいい。

 「稼げない」という理由でさっさとライター稼業から足を洗えるなら、それはそれで幸せなことである。世の中には、PCに向かって文章を書くより素敵な仕事がたくさんある。

 一方、コツコツ趣味の文章を書いているアマチュアはそれこそ救いようのない人種である。だが、そういう人は書いているだけで幸せだろうし、「文章で食っていこう」とさえ考えなければ良い人生を送れると思う。それに、本人に才能があればいつか日の目を見る日もあろう。

 だから、そう。後輩ライターが「仕事が獲れないんです」と相談に来たとしたら、わたしはやっぱり、どこかのタイミングで言うと思う。

「職業ライターなんか辞めちまえ!」

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