小学生が残した遺跡
無色透明で透き通った窓ガラスは、ビショビショした結露で白く曇っていた。
そこに薄ら残っている指で書いた跡。
文字なのか、絵なのか、他人が見たら判然がつかないだろうという絵。
下手過ぎる。抽象画にも具象画にも見えない。
雪がしんしんと降る寒い真冬の夕方5時半。母校の小学校に久しぶりに行く機会があった。
職員室での用事が済んだ後、帰宅しようと校門を出たけれど、何か忘れ物をした気がしてならない。
来た道を引き返すことにした。
職員室へ戻る途中に、ふと気になる教室を見つけた。
誰もいない、放課後の6年1組の教室。
暖房が利いておらず、外ではないのに凍えるように寒い。
確か、私が座っていたのは窓側の一番うしろの席だったっけ。
氷のように冷たい席の椅子を引いて、久しぶりに同じところに座った。
12歳のときに見ていた景色と全く同じまま。
右に目をやると、窓ガラスの板もあのときと同じように曇っていた。
透明な板が結露で白い自由帳になっている日は、目の前に座っている友達と指で絵をずっと描いていたものだった。
思い出が詰まっている板を見た瞬間、驚いてしまった。
犬や猫、うさぎや鳥、小学生が描いた形になっていない”いびつ”な絵。当時のまま残されていた。
かじかむくらい寒いというのに、見入るように見続けたままだった。
懐かしい。
あのときの記憶が甦る。
まるで象形文字。
横にまた新たな、同じ小動物の絵を描き加えてみた。この絵の方は象形文字ではない。
今度また行ったとき、私と友達が残した遺跡は残っているだろうか。
そう期待しながら。