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ダリアの叫び


キッチンのカウンターに置かれた花瓶にダリヤがやって来た。豊潤なピンクの淡いグラデーションが紡ぎ出す艶やかな存在感に目を奪われ、近所の花屋さんで買ってきたのだ。

大きなダリアは一緒にやってきた花々と調和しながらリビングの隅にまで華やかな空気を放ってくれる。



ダリアを眺めながら料理をする日が続く。出来上がった料理を盛り付けながら、美しく咲くダリアに話しかける。

「今日も綺麗だね。」


ダリアは端正に並ぶ花びらを一層整えながらいつも静かに応えてくれる。







ある日の朝、いつの間にか項垂れてきた花たちが目に留まる。昨日までは元気に咲いていたのに。

キッチンの蛇口で丁寧に茎のぬめりを取り、花瓶に栄養剤を入れる。

もうちょっとしたら、お別れカナ....。





栄養剤をあげたのに、数日後には小さな花たちは一斉にクタンとしおれてしまった。


「楽しませてくれてありがとう。」そう心の中で声を掛けながら花たちをそっと順番にゴミ箱の中に置いていく。


ゴミ箱の仲間たちにつられるように、ダリアもその瑞々しさを失い、ピンクの花びらは七分がたしおれてしまっていた。




最後に残ったダリアに手を添えた瞬間、突然ダリアが金切声を上げた。





イヤーーーーーーッ !!    イヤイヤ ステナイデ !! 

   




驚いて手が止まる。




程なくして息をつくと、いつものように水を替え、そっとダリアだけを花瓶に戻した。



他の花瓶の仲間たちは黙って運命を受け入れたけれど、ダリアはとても感受性が強いんだね。



それから何日も何日もうつむいたまま独りぼっちで最後まで咲いていたダリア。もう自分の力で水を吸い上げる事も出来ない。

私はどうしようもないくらいに枯れてしまったダリアにお別れを言った。ごめんね。楽しませてくれて、ありがとう。

ダリアはもう、何も言わなかった。




ダリアは幸せだったのかな。




人の心を潤すために生まれた花々は、幸せなのかな。大地に思う存分根を張る事もなく、太陽の下で輝くこともないまま散っていく花々は本当にそれを運命として、受け入れているのかな。


いつか、人の霊性がもっと高まったなら、未来に花屋はなくなるのかな。



それともやっぱり花は人を楽しませるために咲き続けるのだろうか.....



そんな事をぼんやりと考えながら、空っぽの花瓶が置かれたままのキッチンでいつものように夕飯の支度に取り掛かった。




               

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