伊勢丹のりんご飴
【伊勢丹のりんご飴】
なんて美しいのだろう。
このタイトルで映画が作れるかもしれない!
僕は歴史上初めて新宿伊勢丹(伊勢丹の本店、日本一の百貨店だ)にりんご飴を並べた人間だ。憧れだった。夢だった。それは僕にとっても、きっとりんご飴にとっても。
けど今回のお話は出店自慢じゃない。
もうちょっと個人的なことだ。
興味あれば読んでほしい。
夢を追いかける全ての人に夢が叶った瞬間の話を。
そしてファンの皆さんへ敬意を込めて。
僕が日本初となる"りんご飴専門店"を作ったのは2014年。25歳だった。
どうして専門店を作ろうと思ったかって、べつにりんご飴大好き少年だったわけじゃない。
りんご飴に出会ったのは2011年の末のことだ。
当時付き合っていた彼女がどうしても食べたいとゴネたのがきっかけだ。(もしこれを読んでいたらすまん)
当時の僕はのらりくらりプー太郎のフリーターだった。
社会にうまく馴染めず、根拠のない自信とプライドだけで生きていた。
自分はいつか大きいことをするぞ!と未来を先延ばしにするように根拠もなく思っていた。
そんな時に出会ったのがりんご飴だった。
このりんご飴があまり美味しくなかった。
なんか違和感があった。
見た目が美しいのに中身が伴ってないのは"嘘"なのでは?
ここで僕の夢ができた。
見た目と中身が伴っている"真実"のりんご飴はどういう味なんだろう。食べてみたい。
しかしりんご飴の真実を追求している人間が日本にいなかった。
気になって気になって、気になって仕方がなかった。
自分で作って確かめるしかないと思い次の日には調理器具を揃えた。
どうしてそこまでしたのだろう?
たぶん、きっと、当時の僕の心境がりんご飴のもつ(誰も疑問視しない)違和感と重なったのだろう。無視する方が難しかった。
そこから僕の壮絶な貯金生活が始まり、なんとか用意した自己資金500万円で作ったのが今の新宿本店だ。
あの時出会ったりんご飴が偶然にも美味しければ、僕はりんご飴専門店を作っていなかったかもしれない。
だとすれば世界はりんご飴専門店のない2023年を迎えていたかもしれない。
みなさんはここが夢の叶った瞬間だと思うだろう。
違う。ここじゃない。
僕がりんご飴専門店を開業するにあたって忘れようとしても忘れられないキッカケってのがいくつかある。
①某掲示板での【わたあめ専門店】の存在
②偶然出会った原付日本一周のブログ
③伊勢丹で空目したりんご飴の残像
などだ。
当時僕はのらりくらりと人生の焦燥感を抱きながら生きていた。
新宿に住んでいた彼女の家に転がり込んでは昼間は新宿の街を散歩していた日々だったと思う。
りんご飴との不思議な出会いを果たし、頭の中はりんご飴のことでいっぱいの日々。
ふらふらと新宿を散歩していた時に新宿伊勢丹のショーケースにりんご飴をみた。
僕の背筋に衝撃が走った!
田舎から上京した僕にとって"東京"といえば新宿だ。
そのど真ん中にある得体の知れない百貨店。百貨店は高嶺の花。
おいそれと立ち入ってはいけない憧れの場所だった。
すぐさま(彼女の)家に帰り興奮気味に言った。
「伊勢丹にりんご飴があった!」
彼女はそんなはずないといった感じで取り合ってくれなかった。
僕は百貨店のショーケースにりんご飴が入っていることが嬉しくてたまらなかった。
よかったなぁ、嬉しいなぁ。やっぱり君たち(りんご飴)にはそのくらいの価値がある。みんなにわかってもらえてよかったなぁ。
喜びを噛み締めるべくもう一度伊勢丹に戻った!
すると…りんご飴はなかった。
赤いキラキラとしたガラス製品だった。
なんてこった…!
でも勘違いにしてはリアルだった。
百貨店のショーケースの中にりんご飴がある景色が最高に輝いていた。
僕は証明してやろうと思った。
あの時僕が見たのはたしかにりんご飴(の残像)だった。
本当にしてやる!本当のことにしてやる!
(ちなみに僕が最初にジュエリーケースにりんご飴を飾ることができた百貨店は京都伊勢丹。そのきっかけを作ってくれたのが静岡伊勢丹でした。伊勢丹さまさまです。詳しくはこちら→https://ameblo.jp/pommedamourtokyo/entry-12264824400.html)
そしてお店を作り、なんやかんやあって2020年の12月
僕は新宿伊勢丹本店への出店を果たした。
しかーし、まだ僕の夢は叶っていない!
僕の夢は
【見た目と中身が伴っている"真実"のりんご飴はどういう味なんだろう。食べてみたい。】
ということだ。
これは自分で作ったりんご飴を食べたんじゃ何かが違う。
うちの真似をした専門店のりんご飴を食べても何か違う。
お客さんの夢ばかり叶えて自分の夢が叶わないまま何年も経っていた。
ここでちょっと自慢させてください。
伊勢丹で初めて販売されたりんご飴を最初に購入したのは僕なんですよ!
(当たり前のことだが、それを作ったのは僕なんだけど)
伊勢丹で販売されたりんご飴を最初に買ったのは僕なんです!
出店初日のオープン直後、僕は従業員に
「一個ください!!」
売ってもらいました。
これは、これこそがあの伊勢丹が信頼を置く最高品質の真実のりんご飴だ。
どんな味がするのだろう…何が違うのだろう…。
その日は一日中、カバンの中にあるりんご飴を見ては心がドキドキした。
そしてとうとうその時がやってきた!
1日が終わり、急足で家に帰り、説明書の通りに冷蔵庫に入れる。
もう冷えたかな?いや、もうちょっとだな。
先にお風呂に入ろうかな。でもりんご飴が先かな。
よし50分も経てばそろそろ完璧だろう!
…。
この先はアレだ…。
"お客さんあるある"を自らやってしまった。
感情が先行するあまり、写真を撮り忘れた…。
とにかく美味しかった。
これを作った人に会いたい(僕なのだが)、どんな気持ちで作ったのか聞いてみたい(答えは目の前にあるのだが)。
そんな気持ちになった。
そっか、これがお客さん、ファンの気持ちなのか、って思った。
いままでわからなかった。なんとなく察していた程度で、経験が伴っていなかった。
今やっとわかった。堂々と前を向いているりんご飴はこんなにも美味しかったのか。
りんご飴を食べ終わり、夢から現実へと体温が馴染み、僕はキッチンへ向かった。
そして飛び込んできた景色にびっくりした。
こ、これのことだったのかーーーーー!!!!
僕は心の中で叫んだ!
まな板の上に散らばる飴の欠片が宝石のようだった。
お客さんがツイートで「散らばる飴の欠片すら美しい」と言っているのをみたことがあった。
たぶんこれも"お客さんあるある"なのだろう。
僕は見慣れすぎているので「そうかなぁ、まあ、きれいだけど」とか思っていた。
しかし、違った。
りんご飴の余韻が残る中、まな板の上に散らばる飴の欠片をみてびっくりした。
ああ、お客さんはこのタイミングでこれを見るのか。
なるほど、そうか。そうだったのか。
利益よりも大事なことがある。
そう信じてきた自分がなんだか誇らしかった。
これが僕の夢の叶った瞬間だ。
りんご飴の真実、それはまな板の上で輝いていた。
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ここまで書いてみて、新人従業員のMさんに読んでもらった。
僕「どう?長いかな」
従業員M「…(何かを考えているような雰囲気で静かに首を横に振る)」
僕「…(言葉を待つ)」
従業員M「最初にポムダムールのりんご飴を食べた時のことを思い出しました。同じです」
僕「そっか、それはよかった。」
従業員M「でも、なんか、終わっちゃった?じゃないけど…夢叶っちゃったことが、なんか…。なんて言うんでしょう、寂しい感じがします。」
僕「なるほど。それは確かにそうだね。ここで最後に一文でも【これを多くの人に伝えるという夢ができた】とか書けばハッピーなんだろうけど、なんか臭いし、そもそもそれは嘘になるし」
従業員M「ですね。」
僕「ではどうだろう、こういう一文を最後に書くのは。」
従業員M「それだったらいいと思います。嘘じゃないですし。」
僕「うん、ありがとう。じゃあこの一文でこのブログを締めるよ」───────────────────────
あの日の夢が叶った僕は、
それから新たな夢を探し続けている。