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『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』①

脚本家の坂本裕二さんが好きです。

私は大学3年の時に、叔母の死を経験しました。
シングルマザーで2児のお母さん。
当時の姉妹は、0歳と小学生の年齢。

その子たちと音ちゃんを重ねて見てしまうことがよくあります。

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(音がお母さんに宛てて書いた手紙)

お母さんへ。
お母さんに手紙を書くのは何年ぶりかな?
久しぶり。お母さん。
音は、27歳になりました。
とっても元気にしています。
音は今、なんと、東京に住んでる。
雪が谷大塚という坂の多い町で、
一階にラーメン屋さんのあるアパート。
今はずっと、介護の仕事をしています。
立派な資格も持ってるんですよ。
休みくれとか、もっと給料くれとか思う。
大変は大変。
でも、ありがとうと言われると、
頑張ってよかったなって思える。
努力って、時々報われる。
お金はたまらない。
でも、私には足りてる。
ちょっとのいいことがあれば、
夜寝るときに思い出せる。
やさしい気持ちになれる。
寝て起きたら、次の日が来る。

私には、思い出が足りてる。

坂の上に立つとね、
東京の夜の街が見渡せるの。
そこで、会ったことのない人のことを、
想像するのが好きです。
今あの鉄塔の下で、
女の子がマフラーを落とした。
パン屋の男の子が拾ってあげた。
ありがとう。気を付けて。

深夜の町を走り抜けていくバス。
後ろから3番目の座席に座った、
引っ越し屋さんと、介護福祉士さん。
お疲れさまでした。お疲れさまでした。
この町には、たくさんの人達が住んでるよ。

時々思うの。
世の中って、きれいなものなのかな?
怖いものなのかな?
混ざってるのかなって思った。だから、
きれいなものは探さないと見つからない。
そんなことを教えてくれた人がいた。
一人で見る景色と、
二人で見る景色は、全然違ってたよ。
お母さんにお願いがあるの。
私の恋を、しまっておいてください。
私ね、お母さんが言うとおり、
好きな人と出会えたよ。
ちゃんと恋をしたよ。
6歳の私に教えてあげたい。
あなたは、いつか一人じゃなくなるよ。
その人は、トラックに乗って現れる。
トラックの荷台には、
たくさんの桃の缶詰が積んであって。
あめを一つあげると、
ばりばりと噛んで食べる。
恋をすると、楽しかったことは2倍になるよ。
悲しかったことは半分になるよ。
それまで待っててね。
頑張って待っててねって。
この恋は、私の大切な思い出です。
お母さん。
どうか、しまっておいてください。
大好きなお母さん。また手紙書くね。
じゃあね。 杉原 音

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