ご主人様と私
ちょっとした出来心。
それは好奇心にも似たようなふわふわした感覚でした。
東京の街。
人混みで溢れる繁華街を抜け、一本裏道に入った先。
私は誰もいない公園のベンチに座っていました。
何気なく触っていたスマホの画面に流れた広告。
《家政婦さん募集 日給2万円》
お金に困っていた私の指は、そっと怪しげな広告に触れていた。
ページが切り替わると、そこには簡単な自己紹介、連絡先を載せるよう促すサイトに繋がりました。
「きっと誰もこんなサイト見ないだろうし」
そんな気持ちで軽く送信ボタンを押した。
「ちさきです。
精一杯家政婦さんとしてお勤めします!
どうぞ、よろしくお願いします♪」
どうせ冷やかしの偽サイトだろう。
こんなサイト誰も使わない。
あの時の私はそう思っていた。
それから1週間後のこと。
一通のメールが届いた。
それは、あのサイトへ書き込んだ私の自己紹介文を見た人からの連絡でした。
「こんにちは。
私は〇〇に住んでいるユウスケといいます。
サイトでちさきさんの自己紹介文読みました。
仕事柄、毎日の疲れが溜まっていて、家事も疎かになってしまうことも多いから、ちさきさんに頼みたいと思って連絡した次第です。
一度、お会いしてみませんか?
先ずはしてもらいたい家事の説明だったり、短時間からお願いしたいと思っています。
こちらに来るのにかかる交通費もお出しします。」
あんな広告嘘っぱちだと思ってた。
私はびっくりしたものの、メールの丁寧な文章に少しだけ心が動きました。
それから、毎日の生活のことを考えると、金銭的に大変だという焦りが余計に私を突き動かした。
返事をするのにもう迷いはなかったのかもしれない。
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