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【編集者が編集者にインタビューVol.1】越境編集者/佐野創太

お疲れさまです。はじめまして『ポママガ』編集部の足立と申します。ポママガというのは、私の所属するポマーロ株式会社が、“編集者向け”に勝手に月イチ配信している“ポマーロメールマガジン”のことです。このメルマガ内で、レギュラー企画として続けている(まだ配信して3回だけども)のが、編集者という枠組みや既存の形に囚われず、チャレンジングに仕事をしている全国の編集者さんを紹介するインタビュー企画です。先述したとおり、通常は編集者さんにしか配信していないのですが、ひとりでも多くのひとにこちらで紹介する編集者さんを知ってもらいたい、という想いでnoteにも書き残していくことにしました。
「編集者が編集者にインタビュー」というのは、聞き手である私自身も編集者だからです。簡単に私の自己紹介をしておくと、私ももともと出版社で10年ほど女性ファッション雑誌の編集に従事していた編集者です。現在は、ポマーロという会社で、「編集力を証明する」というミッションのもと、編集者の新たな可能性を模索し、様々なプロジェクトにチャレンジする毎日。そんな編集者である私が毎回インタビューし、新しいチャレンジに取り組む編集者さんから受ける刺激は、編集者のみならず様々な分野で働くみなさんにとっても、励みやなにかのきっかけとなるはず。ぜひこの刺激をみなさんにも感じ取ってもらえたら嬉しいです。

とまあ、前置きが長くなってしまったところで、さっそく第1回目の編集者さんのインタビューをご紹介します。“越境する編集者”をご自身のテーマに、編集の枠を超えて活動する佐野創太さんが、記念すべき初回のゲストでした。佐野さんが“越境編集者”たる由縁や編集者としての歩み、現在携わる仕事から、編集という仕事への想いまで、インタビューさせていただきました。つたない文章ではありますが、最後までお付き合いください。

転職エージェントで発揮された
学生時代に培われた編集力

── 編集者となったきっかけや経歴を教えてください。
「一番古い記憶として「あれは編集だった」と思えるのは、小学校の読書感想文かもしれません。夏休みの読書感想文の課題が嫌いで、どうにかしてラクできないかと考えていたら、星新一さんのショートショートを見つけました。2、3ページめくれば終わるような本をいかに原稿用紙3枚分に広げるかを考えて、色々な視点をぐちゃぐちゃにくっつけていたら原稿用紙に5枚になりました。今思えば、この“悪い編集”が編集者になるきっかけだったのかもしれません(笑)」

── 大学生のときのインターンでは、書籍の編集サポートをやられていたんですよね?
「インターン先の会社が、学生の就活支援をしていました。当時、30代後半位の方々がWebサイトなどの編集をしていました。僕が学生と近い年齢ということで、学生から読んで伝わりやすいものになっているか、書籍の原稿をチェックしてくれとお願いされたんです。読者目線をもった人間が、読者に向けてわかりやすく編集する。当時は、編集サポートとは思わなかったですが、すごく編集らしい仕事だったと思います」

── 意外にも新卒で入社した会社は、転職エージェントです。
「転職エージェントの法人営業をしていました。新入社員時代は、小さな企業を担当するんですが、小さな企業は求人票に入れる情報がまったく足りない。なので、“働くこと”にフォーカスするのではなく、“暮らすこと”にフォーカスして資料を作りました。とある企業の周りは町並みがキレイとか、駅から会社へ行くまでに美味しいパン屋があるとか。
働き始めたらこういう毎日が送れる、生活が良くなるという情報を盛り込んで転職希望者の興味を惹いていました。今思えば、それも“編集的な観点”だったと思います。
その後、同企業でインターンシップメディアを立ち上げ、事業責任者兼編集長を務めました。求人メディアという性格上そもそもコンテンツをつくらないといけないので、事業開発の仕事がそのまま編集長としての仕事でした。学生向けに就職活動やインターンシップ活動の情報を提供したり、企業側にもコンテンツを貼ったメールを送ったりしていました」

“めちゃくちゃ”な異業種の企業案件に
編集者として向き合う

── その後は?
「そのインターンシップメディアを数年運営した後、企業を辞め、ライターと研修コーチみたいな仕事を一年くらいやっていました。あるときは、「HRに詳しい人いないかな」と、某テレビ局関係の社長がツイッターでつぶやいていたので、「はーい」と手を挙げ実際に会いに行き、実際にサイトを立ち上げ某テレビ局のHRサービスの初期のコンテンツをつくったりしていました(笑)。
また、人づての紹介でプロコーチの顧問編集と、ツイッターで知り合った舞台女優の顧問編集者もやりました。2人とは「自分を発信していくためにどんなコンテンツをつくるべきか」、「自分の強みはなにか」、そんなことを一緒に考え、助言しながらコンテンツ作りをしていました」

── とにかく色々とやられていたんですね(笑)。現在はどんなお仕事をされているんですか?
「もうめちゃくちゃです(笑)。ざっと並べると7つあります。
①株式会社オーネットのオウンドメディア『おうね。』の編集長、
②日本で唯一のeKYC対応のデジタル身分証アプリ 『TRUSTDOCK』と本人確認API基盤を提供する株式会社TRUSTDOCKの採用広報チーム立ち上げと編集者、
③フリーランス向け『先払いサービス』のyup株式会社のサービス編集長、
④社員シェアリング・副業紹介プラットフォーム『Tonashiba』編集長、
⑤営業コンサルタント企業の社長の顧問編集者、
⑥一般社団法人・法人営業デジタル化協会(HED)の編集長、
⑦『最高の会社の辞め方』・退職学プロジェクトの発起人と編集長……並べれば並べるほどめちゃくちゃです(笑)」

── ②のeKYC対応のデジタル身分証アプリ「TRUSTDOCK」というのが特にわかりにくいです(笑)。
「TRUSTDOCKは日本で唯一のデジタル身分証アプリとe-KYC/本人確認APIサービスを展開している企業です。eKYCというのは、『electronic Know Your Customer』の略で、銀行口座や仮想通貨口座を開設するとき等に必要となる“本人確認手続き”をオンラインで行う仕組みを指します。確かにこの領域は一見すると堅いしわかりにくいのですが、ドコモ口座の不正利用の問題がきっかけで「本人確認」、「KYC」は世間が注目する領域になっています。
それにTRUSTDOCKの中の人たちは、知的で穏やかなプロフェッショナルが集まっています。こういう「人の情報」をもっと出せば、TRUSTDOCKはさらにプロフェッショナルが集まる会社になります。なので、どういう情報を出したらいいか、誰に向ければ響きやすいのか、採用広報のメンバーに入ってコンテンツを設計させてもらっています。わかりにくいものを簡単にする、伝わるカタチにする。編集者の人ならやっていることを、わかりにくい業種や企業に入ってやるっていうのが大事だと思うんですよね」

── こうしたお仕事はどうやって集まるんでしょうか?
「最初はもう知り合いなんですよね。絶対。企業の人が知り合いに相談したり、声をかけたり。メディアやサービスが立ち上がる段階にいることが大事で、最初から入っているとやっぱりいい。そもそも企業の人たちは僕のことを“編集者”として認識してないですけどね。編集者とライターの違いも、他の職種のひとにとっては些細な違いでしかありません。自分たちがなにか喋ったらコンテンツにしてくれる“書ける人”みたいな感覚で接しているはずです。そのなかでも、一番初めのコンセプト設計や他社との違いを突き詰める、それらは必ずやります。あとは、編集体制の構築。これを作らないと崩壊していくので、このあたりはどの企業においても共通しています」

編集の力で『誤解を解消』していく

── 佐野さんは気がつけば『越境編集者』になっていました。どのように越境していったのでしょうか?
「まず、越境には“縦”と“横”があると考えています。縦は、組織図を描いたときにイチ編集者なのか、編集者のマネジメントができる人なのか、編集者のマネジメントが必要になるくらいのサービスやメディア規模の事業部の人なのか、そもそも事業が必要なのかという経営者的な視点を持つ人なのか。イチ編集者で終わらず、編集者をどんどん越えていく発想が縦です。
横は、職種や業界、ジャンルを越えていくこと。自分で営業したり、事業開発したり、ライターをしたり。編集者はジャンルという発想がどうしても強い。でも意外と越えられるものだし。共通点もあったりする。デジタル身分証アプリだって、ファッション風に落とし込んだら、すごくオシャレなデジタル身分証アプリができるかもしれない、なんて発想してもいいかもしれません。これは思いつきでしかないですが、意外な組み合わせをするとコンテンツになるし、越境すればするほどコンテンツ力は上がるはずなんです。
僕の場合は、自分が貢献したい/できると思えることとクライアントや仕事仲間のリクエスト、社会の要請の3つが合致するかを基準に動いていたら、気づくと従来の編集者らしくない=越境していると、周りにおもしろがってもらえるようになっていました(笑)。ただ、領域によって求められる価値は、変わるし違う。それを早く知る必要があるし、越境した先で大切にされている価値は、絶対に守らなければいけません。ある業界では「おもしろさ」かもしれないし、ある業界では「信頼感」かもしれないです。」

── 最後に、佐野さんにとって編集者とは?
「『誤解の解消の担い手』ですかね。僕は価値が出せることであれば編集にこだわらないし、大きな価値のために働きたい想いが強い。で、一度編集という枠を取っ払い、発想して出た答え。
僕にとって「世の中で一番悲しいことは何か」と考えたら、それは「誤解されること」でした。誤解が解消されれば、AとBという人がいたときに、本来の関係が取り戻せる。それは書き手と読み手かもしれないし、上司と部下かもしれないし、親と子かもしれない。前述した企業も同じ。別に技術やサービスをわかりにくくしたいわけじゃないんですよ。安心してほしいから専門用語を使ったりしてしっかり書く。その「顧客を思いやる気持ち」の結果生まれた「難しくてとっつきにくい!」という誤解を解消でき、安心してほしいという優しい価値観を伝えられれば、きっと多くの賛同を得られるはずなんです。
誤解は、孤独にもつながる大きな社会課題であるとさえ言えます。この誤解を両者の間に立って解消していくことが編集者の役割なんじゃないかな。誤解されていないとか孤独じゃないというのが、幸せの状態だと僕は思うんですよね」

[編集後記]
新たな分野にチャレンジすることは勇気がいるし、簡単なことではない。しかし、佐野さんは業種やジャンルを問わず、職種まで飛び越えることで、編集者としての活動領域を広げていった。佐野さんのこうしたチャレンジ精神や行動力は、編集者にいま最も必要なものなのではないだろうか。佐野さんのように、一歩二歩三歩と踏み出す勇気を、私たちも見習いたい。そして、その一歩を応援したいとも思う。

Profile
佐野創太/Sota Sano
さのそうた■Webメディア・新サービス・採用広報を立ち上げる編集者。『誤解を解消する』編集の技術を応用して木材の新商品開発や町の活性化のための複業アドバイザーを務める。並行して退職学の研究を行い「セルフ終身雇用」という新しい働き方を提唱している。1児の父であり、コロナをきっかけに妻の実家のある長野と東京の二拠点生活を実験中。