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欧州難民差別とキエフカツレツ風人道主義

ウクライナ戦争は単純にヨーロッパ人だけでなくあらゆる人種と人道主義を試す試金石にもなっている。以前からパレスチナ、イエメン、シリア内戦やアフガニスタンへのタリバン政権樹立により世界中の人道主義が揺らぎ続けているが、その一方でウクライナでも同様のことが起きているらしい。ウクライナ国内で所謂「白人」救助を優先する、ないしは「白人」しか助けない、ということが起きているようだ。またその避難先のヨーロッパでも戦争難民でなく「経済難民」のような形で処理されている実態が話に上がってくるようになった。

https://www.ohchr.org/en/press-releases/2022/03/ukraine-un-expert-says-war-against-multi-ethnic-population-must-stop-calls

そもそもウクライナはウクライナ人、ロシア人、アルメニア人、ギリシャ人、クリミアタタール人、さらにマリウポリのテュルク系言語を話すウルム人などから構成される多民族国家である。国連のフェルナン・ド・ヴァレンヌは3月16日にウクライナの戦争から少数派やウクライナの少数民族を守るよう声明を出した。さらには「最重要事項として住民登録がないロマやアフリカやアジア、中東など、肌の色や民族、宗教にかかわらず差別なくウクライナからの脱出ルートについて対処すべき」としている。ウクライナには世界中からの留学生や労働者たちが暮らしている。

…regardless of the colour of their skin, or their ethnicity or religion, must all be dealt with without discrimination along their evacuation route out of Ukraine.

差別されるロマ・アフリカ人

実は以前からウクライナから逃げてきたロマが避難先のヨーロッパ諸国で適切な救助がされない、差別を受けているという報道を見かけていた。例えばチェコではウクライナから逃げてきた人たちを助けるボランティアたちがロマの場合、救助を断るというケースが報告されている。またこれ以前の3月3日にはチェコで避難民を救助に来たバスのドライバーがロマの乗車を拒否し、国境に置き去りにするということも発生している。ドライバーはロマたちを「本当の難民」ではないと考えたようだ。

逆にウクライナ国内でもロマには十分な支援をされていないという話も証言されている。

スロヴァキアに逃げてきたロマの家族は、最終的に教会に保護されたようだが「ウクライナでロマでない人たち(o gadje)は私たちをそこまで助けてくれませんでした。スヴァキアは違います」とウクライナでの扱いを証言している。

…o gadje tari Ukraina na dengje len baro suporto diferencijaja akate ki Slovakia.

アフリカからきた学生たちがキエフの駅で電車に乗ろうとしたが「ウクライナ人専用」と言われ乗れなかったというケースもあるようだ。警官たちは「白人」の女性や子供を優先して電車に乗せていたが、「黒人」の女性たちには目もくれなかったとナイジェリアの学生が証言している。また、ポーランド行きの列車で警官に「この列車はウクライナ人専用だ!」と言われ下されたので、別の列車を待たなければならなかったということもあったようだ。

日本人のキエフカツレツ風人道主義

日本でも「ウクライナを助けるために連帯を!」「ウクライナ人の受け入れを!」と声を上げる人が多いが、それではウクライナから逃げてきたロマやインド人やナイジェリア人を進んで受け入れる日本人はどの程度いるのだろうか。

私は某学会で実名でロシアに対し反対声明で出している。ロシアとウクライナを愛する人間としてロシアを糾弾し、ウクライナ支援に賛成している。しかしながら、街頭などで知らないおじさんおばさんからウクライナ人の救助に署名を求められても偽善に見えてしまうのである。というのも、結局、日本人の救助の申し出は「ウクライナに観光に言って本場のキエフ風カツレツを食べたい」のと同じようなレベルではないかと思うときがあるからだ。

実際、ウクライナ料理はキエフ風のカツレツだけではなくヴァレニキやさまざまなカトレータ、きのこのスープなど、本当に色々な料理がある。日本にいるとなかなか他の料理については分かりにくいし、ロシア料理との境界がわかりにくいこともあるが、実際に足を運ぶとウクライナ料理の豊富さとレパートーリーに驚く人もいたのではなかろうか。

これと同様にウクライナの問題は「ウクライナ人だけ」の問題にとどまっていない。そのため、助ける対象はウクライナ人だけに止まらないはずだ。ロマやアフリカ人、そのほかの国からの留学生や労働者など多くの人々に関連している。そのため、「ウクライナ人を助けたい!」とフィルタリングされた形のウクライナの救助を申し出ているようにしか見えない。それは本当に人道主義に乗っ取った正義なのだろうか?

一番大きな失敗はウクライナ国籍に固執するような形となり、ウクライナ国籍以外やロマなどの住所不定の人間が救助の枠から追い出される仕組みが正規ルートとして完成してしまうことではないか。

我が国の動きを見ると、出入国在留管理庁では「出入国在留管理庁においては、このような状況を踏まえ、避難を目的としてウクライナから日本に「短期滞在」の在留資格で入国したウクライナの方が、本邦滞在を希望される場合、就労可能な「特定活動(1年)」の在留資格への変更許可申請を受け付けることとしました。」としているが、「ウクライナの方」と限定されてしまっていることに注目してほしい。理由は「命が危ないため」のはずだが、ウクライナで命の危険にあっているのはウクライナの人だけではないはずだが、日本ルートではすでにウクライナの方ではない人は例え命が脅かされていてもたどり着けない壁ができてしまっている。また、「難民」ではないから1年間くらいで本国に返す気を隠していないのも、日本の人道主義というのが他の国とずれていることを暗示している。

こういうことを見るたびに日本の人道主義というものは観光客にとってのキエフ風カツレツみたいな、単なるフィルタがかかった消耗品のようなものなんだろうなと思ってしまうのだ。


写真:
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©Vbaleha|Dreamstime.com


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