関西弁の母音調和? 〜関西生活からの語学〜
いろいろありまして、関西へ引越し致しました。
そのため目下、仕事でも日常でも関東弁と関西弁のバイリンガル生活を送っています。
その中で、関東弁にはない関西弁の特徴を見つけました。もしかすると関西弁の否定形には母音調和があるのではないかと最近、考えています。
母音調和とは?
母音調和とはある語の中に、一定の規則に従って、語中に現れる母音が決められている、という現象です。
例えばある言語に"a"と"ä"という母音があったとします。そして、その言語において、"a"と"ä"は異なる母音のグループに属しています。そして、"a"と"ä"は異なるグループであるため、同じ単語の中で同時に登場することができません。そのため、"ayä"というようにな母音を組み合わせた単語は言語の構造上、ありえなくなります。そのため、発音する際に"aya"や"äyä"のように、どちらかの母音のグループに統一しなければならなくなる、というようなルールです。
これが文法事項の根幹になるような言語は特にユーラシアの言語に多いです。例えばウイグル語のようなテュルク諸語、フィンランド語やハンガリー語が属するウラル諸語、それからモンゴル語が属するモンゴル諸語、満州語が属するツングース諸語が有名です。また部分的に母音調和がある言葉として、アイヌ語もアイヌの言語学者、知里眞志保によっても論文で指摘されています。
これらのルールは同じ傾向はあるものの、言語によってルールが微妙に違うため、興味のある方はある言語を一つ学んでみることが早い道のりです。
モンゴル語とフィンランド語の例
例えばモンゴル語は次のような3つのグループ分けになっています。区別するため、ドイツ語のアルファベットやIPAも使っています。分かりづらくすいません。
①а,о,у(ラテン文字:a,ɔ,o)
②э,ө,ү(ラテン文字:e,ö,ü)
③и(ラテン文字:i)
ちなみにフィンランド語は下記のようになります:
①a,o,u
②ä,ö,ü
③i, e
このようにモンゴル語とフィンランド語では使用する母音も若干異なっており、母音調和のルールも違います。
日本語も大昔、万葉仮名の時代にはあったとされていますが、現代の日本語には上記のような厳格な音声的な規則はありません。
関西弁の母音調和?
だがしかし、標準日本語に存在しないはずの母音調和を関西弁は使っているように感じています。それはモンゴル語やフィンランド語とは異なり限定的です。聞いている限り、動詞の否定形に出現します。
ルールはシンプルです。標準語の「〜ない」に対して、関西弁では動詞の語幹に左右され、後続する否定の助動詞や形容詞が変わります。それは「〜ひん(hin)」か「〜へん(hen)」です。しかし、全く違うものくっつけると言うよりも、内部の母音がある法則に従って"i"か"e"に変わるだけで、実質同じものです。ここでは仮に「"hAn"否定」と呼びましょう。
従って、下記のルールで、関西弁では「"hAn"否定」のAの登場パターンが規定されていると考えます:
①動詞の語幹が"i"で終わる時:「〜ひん(hin)」で否定形を形成
例:「きいひん(来ない:kii-hin)」、「できひん(できない:deki-hin)」
②動詞の語幹がそれ以外で終わる時:「〜へん(hen)」で否定形を形成
例:「あらへん(ない:ara-hen)」、「眠れへん(眠れない:nemure-hen)」、「しゃべらへん(しゃべらない:shabera-hen)」
推測するにここでは経済性が働いていると思います。標準語のように一律で「〜ない」とつけるより、関西弁は動詞の語幹に合わせて「"hAn"否定」の母音を変える方が合理的と判断するルールを持つ言語なのでしょう。
関西弁の多様性
なお、一点注意があります。関西弁はまるっと一つの「関西弁」とくくれるわけはありません。上記の例からもれる「できへん」という人もいます。もしかしたら一律で「〜へん」をつけ、「"hAn"否定」を用いない関西弁もあるかもしれませんね。
私なんかはネイティブじゃ全然あらへんので、思わず「こないなことできへんよ」とか「あの人、全然きいへんやん」と言ってしまうんやけど、実際どう聞こえはりますの?
それじゃ、おおきに!
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