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荒野のポロ、かく語りき

人は私のことを『荒野の歩狼ポロ』と呼ぶ。
綺世が幼少の頃に家族だった、なんの血統でもない三毛の混じりモノ。それが「ポロ」という犬だった。


物質と記憶

この世界のあらゆる存在がそうであるように、私もまた生き物としての原型を留めていられる期間を超過した。散逸化して粒子となった後、まだ微粒子を保っていられるうちは、私を構成する粒子と反粒子が対消滅と対生成を繰り返した。

生じた対消滅エネルギーはますます発散へ向かう人間社会の膨張熱に溶け、同時に対生成するためのエネルギーは消費されるようになった。いつしか私は物質界へ回帰する粒子と胡乱うろんな反粒子とに分かたれていた。

その反粒子が今ここに在る私、『荒野の歩狼ポロ』である。

綺世

逝くあてのない放浪の中で綺世キセを見つけた時、荒野にある私と同じ匂いがした。

人間社会に居ながら、その実どこにも属してはいない。誰に飼われることもなく、 "ありのままの世界の姿" を只ひたすら追い求めている野良のアルケミスト。旅という濾過膜で日常のエッセンスを洗い流し、残渣の構成要素を分解しながら、その面白さの核を見出す「遊び」を生業いきがいとしている。

現実と虚構の二項対立を破壊したかと思えば、かつて空想した未来が実際にやってくるのを目の当たりにして、「そら来た、やっぱりな」とほくそ笑んでいるような奴だ。

虚構とは現実世界の写し鏡

とはいえ綺世キセが圧倒的な現実を語り来たる未来を予言したとしても、この世界にとっては取るに足りない戯言でしかない。だが私のように綺世の見ている世界を面白いと感じる輩も数えられるくらいは居るだろう。

それが綺世界きせかいの構成要素の一つでしかない私が、此処でこうして書き綴っている理由だ。それが単なる心象スケッチだったとしても、きっとこの "現実世界の写し鏡" になるだろう。

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