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2021年度 熊本大学 法学部 後期試験 小論文(その1) 模範解答


 現行の法体系においては、個人情報などのプライバシー保護にかかわる法令は国家によって扱いが異なる。課題文によれば、たとえば、アメリカでは公権力による個人のプライバシーにかかわる情報の開示が認められている。他方で、日本においては憲法によって通信の秘密が強く保障されており、事業者が警察権力などに対する個人情報の開示には応じてはならないという義務がある。したがって、法の執行をプログラム化する法執行のコード化を、一国家における法体系にもとづいて行うことには困難が生じる。というのも、他国の法に基づいて個人情報の開示などが要求された場合に、自国の法令と齟齬をきたすことになるからである。それでは、法執行のコード化とプライバシー保護との関係はどうあるべきだろうか。 
 プライバシー保護についての法執行のコード化も、一国家における法体系のなかだけで行うことができない。なぜなら、国家の法体系の差異によって、プライバシー保護のあり方も異なるからだ。したがって、プライバシー保護についての法執行のコード化については、各国の法体系と自国の法体系との差異や矛盾を考慮に入れる必要があるといえる。
 また、法執行のコード化とは単に法文をプログラム化するだけの作業ではない。というのも、課題文によれば法執行のコード化のためのプログラムの作成には、その作業の担い手によってばらつきがあったり、現場での裁量や判断をそう簡単にはプログラム化することができなかったりするからだ。さらに、法とは国家が社会の成員にとって望ましい社会を維持するために定めているルールやスタンダードである。つまり、その社会にとって何が望ましいことなのか、つまり社会にとっての善について価値観や思想を反映したものであるともいえる。したがって、どのような価値観や思想にもとづいてその法令が定められているのかを理解し、反映させなければ法執行のコード化は困難だと考える。特にプライバシー保護については個人の権利や個人の自由の限界をどこまで認めるかについて、国家や人々の考え方には差異が生じるといえる。
 したがって、プライバシー保護の権利については、法執行のコード化を行う際に生じる他国の法令と自国の法令とのあいだに生じる齟齬や矛盾に対応する必要があるといえる。この対応に際しては、各々の国家や社会が持つ価値観や思想どうしの差異の先鋭化や対立が生じることが考えられるため、法執行のコード化とプライバシー保護とは緊張関係にあるといえる。それゆえ、法執行のコード化に伴うこうした緊張関係を緩和するためには、プライバシー保護について私たちが社会として何を認め、何を認めないのかについて、改めて問い直す必要があるといえる。そのうえで、他国の法令との調整や配慮などを行い、我々の社会にとって望ましいプライバシー保護のあり方を実現するべきであると考える。

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