2020年度 慶應義塾大学 看護医療学部 小論文試験 模範解答

問題1.
理由は大きく二つある。第一に、情報処理に必要な能力をどれだけ蓄えているかや、低下した機能を代償することが可能かどうかなど、「認知の予備力」としての認知機能の質や量が個々人によって異なるためである。第二に、加齢による脳の萎縮や損傷などの脳解剖学的な変化が生じたのちでも、損傷した脳神経が担う機能を別の脳神経によって代償する「脳の可塑性」というプロセスが存在し、認知機能の改善が可能なためである。(196字)


問題2.
「効果の転移」とは、ある訓練の効果が訓練対象以外の課題のパフォーマンスの向上に波及することである。しかし、「効果の転移」には水平方向の転移と垂直方向の転移の二つがあり、垂直方向の訓練効果は転移が認められるものの、水平方向では訓練の効果が転移しにくいことが明らかになっている。したがって、脳トレのような訓練課題に対して垂直方向にある訓練は「効果の転移」が認められる可能性がある一方で、日常生活の物忘れの防止などは水平方向の訓練であり、「効果の転移」が発生しない。なぜなら、研究によれば脳トレは、当該の訓練課題に対するパフォーマンスのみを向上させるけれども、訓練と関連しない課題の成績や日常生活での認知機能のパフォーマンスを改善するという根拠はほとんどないと結論づけられているからである。以上より、「脳トレの点数があがることは、日常生活の物忘れが一つなくなることを意味しない」のは、脳トレが垂直方向の「効果の転移」は生み出すものの、物忘れの防止などの課題は水平方向の転移に当たるため、「転移の効果」が発生せず、脳トレが物忘れの防止に寄与する可能性がないためだと言える。(482字)


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