2017 埼玉大学 経済学部 国際プログラム小論文 模範解答
問1
人類の発展の陰には、格差がある。たとえば、今日の世界的な格差は、近代の経済成長によって引き起こされたものだ。なぜなら、世界の一部で長期的かつ持続的な成長が始まっても、他の地域ではそうはいかず、国家間に縮まることのない格差を生んだからだ。それゆえ、経済成長こそが、世界的な所得格差の源である。さらに、ある国の発展が、別の国の国民に貧困と格差を強いることによって、成立する事例も多々ある。また、グローバル化による発展にも格差が隠されている。たとえば、アジアの新興国の急成長は、アフリカの国々を置き去りにすることで格差を生んだ。一方、国内においても国家の経済成長の速度が落ちると、国民間の格差が広がるようになる。一握りの人々が莫大な財産を築き、大多数の人々は物質的な豊かさを享受することはないからだ。そのうえ、医療の発展も健康格差を生んできた事実がある。以上より、発展は格差を生むことによって生じている。(399字)
問2
我が国では、子どもたちの学力格差の拡大が社会問題化している。親の経済状況や学歴、教育投資欲の差によって、子どもたちの学力にも差が生じると指摘されている。他方で、新たな先進的教育施策の発展が目覚ましい。たとえば、新しい学力観にもとづいた大学入試改革やICT教育、アクティブラーニングなどの先進的教育施策が近年展開されている。こうした先進的教育施策の目的は主として、我が国の発展に資する優秀な人材の育成、輩出であると考える。したがって、現在の先進的教育施策は、中高学力層の子どもの学力や能力をさらに発達させる施策であると言える。しかし、諸々の先進的教育施策の展開が目覚ましいことは、他方で低学力層の子どもたちへの対応が置き去りにされていることの証左でもある。その結果、先進的教育施策の発展によって、子どもたちの学力や身につけられるべき能力にさらに差が生じることになる。以上より、課題文における指摘と同様に、先進的教育施策の発展の裏には、学力格差の拡大という問題があると言える。
「格差」とは、「差違」ではないから是正する方が望ましいという価値観が付与されている言葉である。それでは、なぜ学力格差は、是正するべきなのか。先進的教育施策が発展する一方で、低学力層への対応が等閑に付されることによって、さらなる学力あるいは能力格差が生じているのだとしたら、子どもたちはスタートラインの異なる不公正な競争を強いられていることになると言えるからだ。したがって、学力格差の生み出されるプロセスに、以上のような子どもたちの努力の及ばない要因が関わっていることは、生まれや身分階級に関係なく、機会が保証されるべき教育においては不当であると考える。それゆえ、学力格差は是正されるべきだと考える。
それでは、新しい教育施策を展開することが学力格差を拡大させるという矛盾を抱えながら、どのようにして学力格差を是正するべきだろうか。まずもって、現在の中高学力層に対して行われる先進的教育施策以上に、低学力層にある子どもたちへの教育施策を展開、充実させることが必要だと考える。なぜなら、低学力層への教育施策の展開により、学力格差の拡大を防ぎ、さらには低学力層の子どもを中学力層へと引き上げることも可能だと考えるからだ。したがって、低学力層への教育施策を充実させることが学力格差の拡大を是正することになると考える。(987字)