2020年度 横浜国立大学 都市科学部 環境リスク共生学科 後期 小論文 模範解答

問1.

 図より、一般消費者と食品安全の専門家との回答の傾向に特に顕著な差異が出ているのは、「食品添加物」「農薬の残留」「食品中の放射性物質」「カドミウム等」「遺伝子組み換え食品」などの項目である。つまり、一般消費者のなかには以上の項目についてガンの原因となると考える者が一定程度存在する一方で、専門家は上記の項目をほとんどガンの原因として考えていない。以上のように、一般消費者と専門家との間でみられる認識の相違が発生した原因は、両者が得る情報の質や量、判断の根拠に差異があるからだと考える。というのも、一般消費者はマスメディアによって報道される情報にもとづき、不確実な事象に対する主観的確率や損失の大きさの推定を得たり、不安や恐怖などの統合された認識を持つ一方で、専門家は、科学的知識に基づく確率推定や損失の量的測定を判断の根拠とするからだ。したがって、一般消費者と専門家には認識の相違が発生したと考える。(399字)


問2.

 一般消費者と専門家との認識の相違を最小化するためには、科学的な根拠に基づいた独立性のある発信ができる立場にある人間が、発がんリスクについて一般消費者向けに伝えるべきメッセージを整理して明確にし、端的でわかりやすい情報を発信することが必要だと考える。というのも、情報発信者が特定の立場寄りと見なされると独立性に疑念を持たれ、リスク認識の精度を高めるためのコミュニケーションが機能しなくなることが懸念されるからだ。また、リスク情報の効果的な発信を行うためには、科学的な正確性を伝えようとする情報発信と、受け手側の行動変容を起こそうとする情報発信とを区別して考え、情報を整理する必要があるからだ。
 しかし、リスク情報を発信する際に確率論的な数値だけが単に示されても、一般消費者がそのリスクを適切に理解するのは容易ではない点が課題となると考えられる。というのも、一般消費者が確率論的な数値を独自に解釈する可能性があるからだ。たとえば、5年以内のがんの発症確率が数%と示される場合、受け手側は「ほとんど起こらない。」と認識するかもしれない。しかし実際には、数%に満たなくてもがんは発症しており、この発信ががんへの備えという行動変容に結びついているとは言い難い。したがって、確率論的な数値をどのように発信し、どのように理解してもらう必要があるのか、発信側と受け手側との共考が求められる。(586字)

 

 

 

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