2019年度 慶應義塾大学 看護医療学部 小論文試験 模範解答
問題1.
病者が、健康な者が生きる現実世界とは異なった、元気になることが困難な状況にあることを最も理解しているにもかかわらず、「元気になって」という言葉が病者自身に克服しがたい要求として投げかけられるため。(98字)
問題2.
若松によれば、病に苦しむ者は、病んでいるという存在のあり方そのものによって、介護者に対して自身が非力でしかない現実を突きつけ、不安やおののきを生み出す一方で、介護者のそうした思いをさらにくみ取り、介護者への配慮を示しながら、介護者との協同の関係を結ぼうとする。したがって、下線部2)の言説は、病者の存在が介護者に対して、非力感や不安やおののきといった複雑な感情を生み出しながら、介護者に対して生きる意味や病者への接し方、病者の存在の意味を考えさせる機会を与える点で、介護者に多くを与えていることであると理解できる。
それでは、こうした苦しむ者としての病者のあり方に対して、介護者はどのように接するべきだろうか。私は、生死を賭けなくてはならない病を有する病者に対しても、自らの存在そのものによって、病者の言葉や苦しみを受け止めて、病者に応答できる可能性があると考える。なぜなら、「私は、あなたの言葉や苦しみを受け止めて、そばにいるという応え方をさせてもらいたい。」というこの応答可能性こそ、病者と介護者との間につながりをもたらすと考えるからだ。
したがって、病者の苦しみや存在そのものに寄り添い、そばにいるという応答の可能性を病者に示すことが、病者から恩恵を受ける介護者に可能な最後の病者への接し方だと考える。そして、その可能性を病者とも共有できるところに救いや癒しがあると願いたい。
(589字)