2021 年度 東京女子大学「知のかけはし入試」小論文 模範解答

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、日本においても未知のウイルスへの不安から生まれるデマ情報やフェイクニュースは、SNS の普及を背景にこれまでにないスピード拡大する事態が見られた。特に新型コロナウイルス感染症に関連し、医学的な根拠のない感染予防法・治療法に関する誤情報の拡散が相次いだ。なかには「漂白剤を飲むことでコロナウイルスの感染を予防できる」など、実行したら人体に危険を及ぼす誤情報もあった。また、医学的な根拠のない感染予防効果を標榜する健康商品等のインターネット広告も多く出現した。さらには、根拠のない噂が発端となり、感染症と直接関係のない商品、なかでもトイレットペーパーが日本全国で買い占められるに至る騒動も発生した。
 このように新型コロナウイルス感染症の流行拡大は、公衆衛生上の問題にとどまらず、広く社会において私たちの情報への向き合い方にも疑問を呈したと考える。というのも、常識で考えれば正しくないとされる誤情報に加えて、デマやフェイクニュースに踊らされたり、影響を受けてしまうことは、社会に様々な悪影響を及ぼすことになるからだ。それでは、社会全体を巻き込む緊急時において発生するデマや誤情報、フェイクニュースに対して、我々はどのように向き合う必要があったと言えるだろうか。
 このような事態は実は、東日本大震災時にも生じていた。原発事故に伴って、放射線量の報道が連日繰り返され、専門家によって見解が異なったり、政府の対応も定まらないなか、放射線や原発、さらには福島県に対するデマやフェイクニュースが流布し、当該地域の人々に対する差別や偏見を生み出す結果も生じ、問題視された経緯がある。他方で、台湾において新型コロナウイルス感染症に対して迅速な対応が可能だった背景には、台湾政府が過去のSARSの経験を活かし、即応体制が整えられていたことがスピーディーな対応につながったと講義において紹介されていた。しかし、日本における新型コロナウイルス感染症の流行に伴うデマや誤情報、フェイクニュースの発生を鑑みるに、各種の誤情報などへの対応について、東日本大震災時から進歩がないと言わざるを得ないと考える。したがって、台湾における事例のように、日本においても原発事故の経験に学び、新型コロナウイルス感染症の流行においても、デマや誤情報、フェイクニュースへの対応に備える必要があったと考える。それゆえ、今後、原発事故や未知のウイルスの流行拡大のようなイレギュラーな事態に付随して生じる、デマや誤情報、フェイクニュースの発生に対して備えるためにも、緊急時に行政機関は正しい情報の早急な開示に努め、マスコミも行政機関と協働し、国民にいち早く正しい情報を報道する体制を整備するとともに、私たち国民も情報に対するリテラシーを高めていく必要があると考える。(1166字)

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