2017 お茶の水女子大学 文教育学部 人間社会科学科 後期日程 小論文 模範解答

オープンチャット「大学入試 小論文 対策相談室」 
 
 絶対的貧困とは、生物学的な見地から見て、ある人の生存および労働能力の維持が危うくなる状態のことである。たとえば、生存に必要な栄養量が摂取できないとか、寒さをしのぐ衣服がないといった状態が絶対的貧困である。絶対的貧困の判定基準は国や時代などに関係なく、人間という生物において共通かつ不変なものとして決定される。
 他方、相対的貧困は、特定の社会のほとんどの人が享受している「ふつうの生活」(衣食住のほかに、就労、レクリエーション、他者との交流も含まれる)を送ることができない状態、いいかえれば、人としての尊厳や人権が守られていない状態のことである。絶対的貧困とは異なり、相対的貧困であるか否かの判定基準は、その人が生きている国、時代、社会によって変化する。このように、どのような状態が相対的貧困であるかは、社会全体の生活レベルによって異なるため、相対的貧困を防ぐのに必要な費用は、絶対的貧困を防ぐのに必要な費用と同じにはならない。
 現代における貧困の特質について、私は、相対的貧困の多様性を挙げることができると考える。近代の市民革命以降、すべての人間に基本的人権があるという考えは広く支持されている。とりわけ20世紀に入り、人間たるに値する生存の保障を定めた社会権(のうちの生存権)が多くの国の憲法に盛り込まれている。くわえて、東西冷戦終結後の現代は、理念、信念、立場の多様性がそれまでの時代に比べて強く意識される時代である。そうした時代において、どのような生活を送ることが人間らしい生活であるのか、いいかえれば、どのような生活が相対的貧困ではないのかに関して、各国、各地域に共通の理解を形成するのは非常に困難である。
 そうであれば、相対的貧困への対策は、それぞれの社会のなかで、人々がその社会に見合った人間らしい生活を送れるような環境や制度を整えることであるだろう。これはたとえば、日本においては、生活保護の支給額がその時々の社会情勢に鑑みて変更されたり、最低賃金の額が都道府県ごとに異なっていたりすることに反映されている。このように、社会の多様性に応じて、相対的貧困を防ぐのに必要な費用や対策も変えていかなければならず、画一的な対策は非現実的であると考える。(925字)

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