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踊る大捜査線の現場主義に反し、幻の間人蟹をお取り寄せしてみた
幻の間人(たいざ)蟹を聞いたことがあるだろうか。
京都北部の丹後半島にある間人港で水揚げされる最高級の松葉蟹である。
日帰りで帰ってこれる漁場が故に、鮮度と質が抜群で、小型船4隻しかなく、特に冬は海が荒れて漁ができないこともある希少性から、幻と言われている。 引き締まった身に、蟹みそが最高とのこと。
ここ数年、年末年始は1年間頑張ったご褒美に蟹を食べ旅に出ることにしていた。
間人蟹のことは、以前情報を集めている時に知った。このエリアの宿は最低でも1泊2食付きで5万円近くする。東京からの交通費も考えると、近場のアジアに行った方が安い。それでもいつかお金を貯めて、現地に食べにいきたいと憧れを抱くようになった。
「事件は会議室で起きているんじゃない! 現場で起きてるんだ!」
昔流行った「踊る大捜査線」のドラマの青島刑事の有名なセリフみたいに、私の旅のポリシーは「現場主義」だ。
美味しいものと旅の醍醐味は現場にあると思っている。現地に食べに行くのがいい。
地産地消にも貢献したいし、蟹は現地の方が新鮮な状態で食べれる。そして、何より、現地に行かないとわからない食べ方や食材、その土地の文化、雰囲気、新しい人との出会いもある。そういう旅の中での発見を味わうのが、旅の楽しさだ。
そして、今年こそ恋い焦がれた、間人蟹に会いに(いや、食べに)行けるとおもいきや、
事件は重なったのである。
2018年は本当に色々なことがあり、年末には、旅をする気力も体力も残っていなかった。とりあえず、実家には一旦は帰省することにしたのだが、実家の猫が膀胱炎になってしまったので、ずっと毎日看病が必要で、遠出はできないことになった。
この蟹への愛をどう消化しようか、もやもやしたまま、なんとなく諦めきれず、いつか行こうと間人蟹やホテルの情報を見ていた時に、ふと、目が止まった。
そう、蟹の通販である。
あ、そうか。
お取り寄せという手があった!
現場主義な私は、お取り寄せなんてほとんどしたことなかった。
現地に行って現地の土地のものを食べるのが何よりの楽しみだと思っていたから。
だから、自分のポリシーを曲げるようで、すごく抵抗があった。
でも、どうしても蟹への愛には勝てなかった。
1年の終わりのご褒美に、どうしても、蟹が食べたい、食べたい、あぁ、食べたい。
今の状況で、動く気力も体力もなく、あまり遠出もできず、蟹を食べたいという気持ちだけが募っていくこのモヤモヤした八方塞がりな状況。
冷静になり、お取り寄せするメリットががあるのか、考えてみた。
旅行に行くよりも、コストが3分の1程度に抑えられる。移動時間も省ける。体力的な負担もない。調理する手間はあるが、うちの父親は和食の料理人なので、その辺りのことは心配がなかった。
えいっ、やっ。買ってしまえ。
さよなら、諭吉さん。
現地に行って味わうという「現場主義」に反しつつも、
蟹への愛を優先して、私は幻の間人蟹をお取り寄せすることに決めた。
お取り寄せをしょっちゅうやっている人にとっては、何を大げさなと思われるかもしれない。でも、今まで貫いてきたポリシーやこだわりを一度捨てて、自分を変えるというのは、結構大きな心の変化である。
そうして、12月31日、満を持して活け間人蟹とご対面。
じゃ、じゃん!ブランド蟹の証、たいざは緑のタグ。
焼きガニ、蟹みその甲羅焼き、そして刺身と、翌日の寄せ鍋と、フルコースを堪能。
甲羅焼きの濃厚な蟹みそを絡めた蟹の身を口に頬張ると、言葉で表すことができず、「んーーー!」としか声が出なかった。
最後に、日本酒を注いだ甲羅酒は、まさに天にも昇るような気持ちなった。
しばらく目をつぶって蟹と一緒に2018年を味わう。
本当にこの1年は苦い味だった。それが、この瞬間の極上のおいしさに変わった。苦味を味わったことで、美味しい味がより一層美味しく感じられたのかもしれない。普段は離れて暮らす家族と一緒に過ごす時間のありがたさと、ゆったりと流れる温かい良い時間を味わうことができた。
お取り寄せという、新境地。
現地に行く旅で刺激を得る代わりに、今回は慣れ親しんだ実家で、美味しいものを食べてゆっくりとするという新しい楽しみ方を知った。
自分なりのこだわりやポリシーを持つことは、大事なことである。自分の判断基準の軸となってくれる。その一方で、それに固執しすぎると、クリエイティブな発想ができなくなることがある。
今思えば、2018年の私はそうだったのかもしれない。
今までの自分のこだわりやポリシーを少し視点を変えて、あえて一度壊してみると、違う世界やクリエイティブな方法を見出すことができる。その先には、言葉にできないくらい新しい喜びが待っているかもしれない。
平成最後の年末年始、幻の間人蟹がそのことを教えてくれた。新しい時代と一緒に、2019年、私も一皮向けて、変わっていくタイミングなのかもしれない。
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