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武蔵野美術大学の水野遥介の展示

武蔵野美術大学の卒展で見た水野遥介さんは、5点の油画の作品を展示していた。そして、ドローイングはファイリングされて閲覧することが可能だった。水野さんの作品を見たのは二回目で、Room412の展示を見ていた。

《boundary》, ©水野遥介

《boundary》は、2,590 × 1,940 mmという大きさの作品であり、描かれている人物は、ほとんどの人物よりも大きい。そこに実在するかのような存在感がある。背景はストロークによって床と壁を認識することができるが、いや足があるから床であると認識するのかもしれない。人物の表情を読み取ることができないが、それが鑑賞者を画面に引き込んでいく魔力を持っている。この画面と対峙した時に、どのようなシチュエーションだろうかと考える。屋外なのか、部屋の中なのか、人物の後ろの濃い部分が椅子に見えるし、路地裏のゴミ箱のようにも見える。タイトルのboundary(境界)とは、そうした視覚的な部分と、解釈的な意味を求める部分にも存在しているように感じた。

《泳ぎつづける夢》, ©水野遥介

《泳ぎつづける夢》も大きな作品であり、2,273 × 1,620mmである。横たわる人の腹から頭にかけて紅白縞模様の魚が乗っかっており、その光沢からバルーンのようにも見える。奥には緑と白の同じような魚があり、左下の影が視界を限定し、画面全体の暗がりとで遊園地の倉庫なのかと連想する。そうなると人はマネキンなのかもしれない。衣装をはぎ取られたピエロの人形だろうか。靴だけを履いていることも納得感がある。
タイトルは《泳ぎつづける夢》であり、夢の中の出来事であると決着する。夢の中であるからには、秩序を求めなくてもよいかもしれない。画面に登場するモチーフは、リアルであり、その関係性だけがチグハグである。そうなると左下の影の不穏さが立ち上がる。
粗い目のキャンバスを使っており、その表情を浮き立たせるように描かれている。画面に近づいてみると、キャンバスの地の特性なのか、画家の狙いなのかが分からなくなる。これこそ夢の中だろうか。

惹かれる画面。展示されている作品の全てに人物が描かれていたが、顔がなく、そこに対面すると不可思議な気分になり、釘付けにされた。

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Tsutomu Saito
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