東北芸術工科大学美術科東京選抜展の萩中茉優の展示
萩中茉優さんの展示は球体関節人形と版画作品を提示していた。
二体の球体関節人形が木の椅子に座って向き合っている。頭部は鳥であり、奥の人形は足が鳥のようにかぎ爪がある。問答をしているかのような向き合い方、人型をしているが、その頭部から人とは遠い存在に見えてしまう。しかしながら、骨格標本のような白色から、見ているうちに人形と対峙している際の距離感がバグってしまう。
ステートメントには、思考の際に一人二役で自問自答をするとあった。この人形は、討論の際にでてきたモノを現実に取り出したのだろうか。作品のタイトルは《球体関節人形Ⅰ》と《球体関節人形Ⅱ》とある。言語化する議論の場合は人を召喚するが、言語化しなくてよい場合には無機質なものを使うという。
人形の議論をすり抜けた先には、銅版画が掲げられている。
メゾチントにより制作された画面は深い黒が印象的であり、浮かびあがるモチーフの明暗をはっきりと見せている。頭の上に降りかかった縛られた魚、その魚に驚く様子の鳥、手は人の形に近く、魚の本を読んでいることから、擬人化された鳥であることは容易に解釈できるが、なぜ魚が降ってきたのだろうか、そしてなめくじが二匹居るのはなぜか。
ステートメントからは、日常にある不快感を表しているとあり、干物にしようと思っていた魚が急に落ちてきたと書かれていた。確かに、そんなシチュエーションは嫌だろうな。
コンビニ帰りに地面にタマゴを置いて撮影しようとしたら、通りすがりの何者かが持ち去ってしまったという。
展示空間と作品は、シュルレアリスム的であるが、言い表せないもどかしさというよりも、言語化へ抵抗するかのように見えた。
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