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《ロウ》鈴宮リョウ
東京藝術大学の油画三年進級展を見てきた。ヒルサイドテラスで開催するのは二回目のこと。
入り口にチラシに石が置かれた列が気になっていた。何かの作品だろうと想定していた。鈴宮リョウさんの作品であることが分かった。
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メインの展示はどちらだろうか。輪を作ったチラシと石、ブラウン管テレビを囲むような具合で配置されている。
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チラシが飛ばないように石が置かれていると捉える。人の手が介入していることはわかる。ただ、何のため?という疑問が湧き上がる。ステートメントで説明によれば、これは上野公園で炊き出しに並ぶ場所取りの印であるという。ギャラリーにあれば、何らかの作品であると認識されるが、ヒルサイドテラスの入り口にあったらどうか?そうした問いかけをしているようである。これは、初期のコンセプチュアルアートが美術館へのカウンターとして活動していたことを想起させる。
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チラシに石である。シワの特徴や、石の形を愛でるものではなく、ましてやチラシの画面の趣味の話でもない。視覚的な満足から思考へと促している姿勢があった。
ギャラリーの中で提示されているのは、実際に使われていたチラシと石だという。交流し、意味を知り、場所取りの道具であるチラシと石を譲り受けた。一方で、ヒルサイドテラスの入り口に置かれたチラシと石は、代官山で見つけた石だという。
ブラウン管テレビに投影されている映像は、上野から代官山まで歩いて見つけた排除アート、ホームレスなどがネグラにしないように突起物などで居心地を悪くすること。それを見つけたら、《ロウ》を展開し映像を撮る。ブラウン管テレビは、そのことを見えなくさせるためのように見え、VHSテープは一方通行的なメッセージに見えた。鑑賞している間に、映像が終わり、自動的にテープが巻き戻される。ループではあるが、一方通行的な時間の流れがあり、それは排除が、不可逆的に溝が深まっていくことを表したようである。
去年のベネチアビエンナーレのオーストリア館で排除アートに関する作品を見た。その排除アートは移民に関する問題も取り上げていた。
鈴宮さんの作品は、排除アートそのものを見せるだけでなく、その行為に至ったことをホームレスとの交流によってリサーチも行った。議論、対話を起こす良い作品だと思う。
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