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ギャラリー運営3年目、春名真歩の展覧会は2回目

2024年の7月でギャラリー運営は三年目に入った。入念な準備をしたというよりも勢いで始めたようなところもある。それまでは大学院ゼミの現代アート研究と、研究に伴う作品コレクションをしていたが、ギャラリストとして作品を説明する側になった。

友人のギャラリーを見たり、作品をコレクションしたり、ギャラリストやアーティストに話を聞いたり。なんとなくギャラリーのビジネスモデル、業務フローは分かっていたけれど、いざ始めてみると整備しなくてはならないことが沢山あった。そして業務フローでは表せないような細かなタスクも。本業では事業戦略や構想策定の一環として業務フロー整備などをやるけど、ほぼ一人でギャラリー運営しているし、ドキュメントワークをしている余裕もなかったし、共有する相手もいない。よく言われるような走りながら考える、という便利な方針をとった。

ギャラリー立ち上げから運営までの記録は、ゼミ仲間 (*1) のジャーナルに寄稿したけれど、形になるのか分からない。今となっては内容を見直したいけど、もう手を離れてしまった。いつか振り返りとして、ギャラリスト日誌を別のテキストに書こうと思う。

さて、春名真歩の二回目の展覧会が2024年10月後半から始まる。
春名真歩の作品を初めて見たのは、2023年の東北芸工大の東京選抜展だった。ギャラリーを始める前にも選抜展は見に行っていたが、ギャラリーをはじめてからは全国の卒業・修了制作展を見て回っている。選抜展は2月の後半の日程だったので、ほとんどの美大、芸大の卒業・修了制作展の見学は終えていた。
この年は東京造形大学博士展、東京藝大博士展 (*2) から始まり、3331で開催されていた3年進級展を経て武蔵野美術大学 (*3) 、多摩美術大学、東京造形大学、東京藝術大学(油画内覧会にもでかけた(*4) )、京都芸術大学 (*5)、京都市立芸術大学、嵯峨美術大学、佐賀大学、IAMAS (*6)、愛知県立芸術大学、名古屋芸術大学 (*7)、五美大展を見て回った。
気になる作品は学生に質問をして、作品に関することから制作に関することまで話をする。造形技術だけでなくコンセプトやアイデア、創作のモチベーションなどへ会話が発展していった。そうした会話をしているうちに展覧会を企画したくなる。いろいろな出会いがあり、うちのギャラリーでプレゼンしたいと思うアーティストがある。しかしながら、展覧会をオファーしようにも、もはやインターバルが無かった。従って東北芸工大の選抜展は様子を見るだけのつもりだった。

春名真歩が提示していたのは抽象画、大きな画面を割り当てられた壁一面に提示しており、迫力があった。そして小さなステートメントが添えられていて、要約すると穴を描いているという。会場を二周しているうちに、春名真歩と話をする機会を持てた。

東京選抜展 展示風景

大きな画面と沢山の作品の提示に圧倒されていたが、目の前にあらわれた春名真歩はかなり小柄であり、そのコントラストに驚いた記憶がある。大学のアトリエで制作している様子の写真を見せてもらったが、F100号キャンバスに描く様子は壁画に取り組んでいるようだった。

具体的なモチーフを描いている時期もあったが、今は空気を描いている。空気は目に見えないから、それを捉えるように穴を描いた、という。この時は絵画の色と構成とを示そうとしていると解釈したが、その解釈は時間とともに変化していくのだ、と最近気が付いた。

監視中だったらしく、あまり長話をしているわけにもいかず、名刺だけ差し出して会場を後にした。ギャラリーオープンの時間も近づいていた。当時は西本春佳の「ただ集まって、春を待つ」を開催していた。こたつにあたって、アーティストと鑑賞者がお茶を飲みながらおしゃべりをするというパフォーマンス、会期2週目はアーティスト不在で痕跡を示していた。そこに春名がやってきて、ギャラリーについての質疑応答が始まった。aaploit はレンタルギャラリーではないこと、出展料の費用はかからないこと、などなど。

展覧会のオファーをするとき、出展料のことを聞かれることが何度かあった。やはりギャラリーの側から見えてくることもあるのね。他には斉藤はどうやって展覧会オファーをするのか?どのようにアーティストを選んでいるのか?という質問も受けることがあるが、その時々で変わるため、うまく説明できない。けれども、アーティストとしてどのように成長していくのか(いきたいのか)は必ず確認している。オファーは断られることもあり、むしろ断られるのは半々くらいじゃないだろうか。運営3年目に入った今でもオファーをするときはドキドキする。知人のギャラリストが「今では知っている人の展覧会ばかり」と言っていたことを思い出す。

春名真歩の展覧会を実施しようと考えたが、既にインターバルがなかった。8月は夏休みにするつもりだったが、そこに春名真歩の最初の個展を入れ込むことにした。打ち合わせを重ね、ギャラリープレスを仕上げ、DMデザインを行う。小さなスペースにも関わらず大型作品が搬入され、かなり焦りを感じた記憶がある。ギャラリーの壁という壁が絵画でうまり、床にもドローイングがばらまかれた。生きている展覧会にわくわくした。春名真歩展のステートメントを書くのは苦労した記憶がある。いや、苦労したのはアートライティングだっただろうか。

春名からは絵画を教えてもらった。大学院でコンセプチュアル・アートを学んだものの絵画については基本的なことだけを表面的におさえていただけだった。ギャラリーはアーティストにもコレクターにも教えられ、育ててもらえる。春名の絵画を見に来た鑑賞者にも様々なことを教えてもらった。絵画の見方というのは奥が深いが、だからこそ面白みがある。

分からないからこそ面白い。具体的なモチーフがあったら、そのモチーフの絵だね、で終わってしまいかねない。だからこそ画家は苦労するのだが、技法だけに頼らず、コンセプトを強化したとしても、絵画はアートそのものである。その枠組みを超えるにはどうすればよいのだろう。春名と打ち合わせを重ねると、そうしたことを考えさせられる。

aaploit がアーティストにオファーを出すとき、それを許諾してくれたとき、そこからチームが始まる。うちは小さなギャラリーだけれども、だからこそアーティストと二人三脚で成長していくステージにあると思う。春名に限らず、アーティストと対話をし、展覧会で世に問う。こうした活動を考え方も含めて継続していきたい。

チーム春名として、展覧会の開催にあたり月刊アートコレクターズに春名が取り上げられたのは、とても嬉しかった。



*1 2019年に京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)の社会人向け現代アートコース(大学院)に入学、2021年3月に修了、後輩のゼミ生がジャーナルを作るということで、開廊日誌を寄稿した。
*2 正確には2022年のこと。ここで植松美月の作品を見た。陳列館で大きなインスタレーションを展開しており、これは何か?ということを同行者と話をした。ちなみに、春名真歩がギャラリーにやってきたときに、たまたま植松もギャラリーに来ていた。その時は自転車で来たらしく、足腰に応えたらしい。
*3 初めてのムサビ訪問、駅から遠いことと、車止めのポールに膝をぶつけてしまい、かなり長いこと痛みがあったことを鮮明に覚えている。ここで初めて道又蒼彩作品を見て、展覧会へとつながった。その後の躍進は目を瞠るものがあるが、これも別の機会にテキストを書こうと思う。
*4 ここで岡田佳祐の作品を見た。絵画棟の部屋ひとつを使い展示していた。窓際に置かれた石が気になって確認してみたら、山歩きで拾ってきた石を砕いて顔料にしているという。2024年1月に展覧会を開催したが、次回展も考えている。
*5 修士一年生の松下みどりの作品が提示されていた。日本画ではあるが、日本画らしからぬ素材との向き合いに興味を惹かれた。2023年12月に展覧会を開催、次回展は2025年の夏ごろだろうか。
*6 ここで大越円香の修了制作を見た。IAMASを知ったのもこの時はじめてだったけれど、実は元同僚にIAMAS出身者が居たことを知ったのは、ずっと後になってからだった。大越円香とは、いろいろと交流を経た後に、9月に個展を開催することができた。
*7 午前中に愛知県芸を巡り、午後に名芸に出かけた。名芸の最後の最後で、なんやゆうきの展示を見た。2023年6月に展示を行い、ソウルのグループ展でも作品を提示した。近日中に次回展のお知らせができると思う。

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Tsutomu Saito
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