桑迫伽奈&イイダユキ 写真展『夜になりすます。』@PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA 鑑賞メモ
名古屋の柳橋中央市場にオープンした現代アート写真ギャラリー、FLOWの開廊展覧会に出かけてみた。
年期の入ったビルの2階、一番奥のスペースに隠れ家のようにオープンしたギャラリー、このビルが味わいがあって、ビルの中なのに廊下にカーブがかかっていたり、交換手が待機している電話が設置されていたり、消火栓の扉が黄色に塗られている。
ビルの内廊下にも関わらず、窓があるあたり、増築したのではないかと思われる。このビルの来歴にばかり気を取られていられない。
名古屋で現代アート写真を取り上げるギャラリー、こうした年代もののビル内で、最新の領域に挑戦するというのが面白い。
開廊記念の展覧会は、桑迫伽奈とイイダユキの二人展『夜になりすます。』二人とも美術館に作品が収蔵されている。
桑迫伽奈は、被写体の曖昧な光を刺繍によってなぞられる。写真として写しとられた光なのか、アーティストによって加えられた線なのか、そうした線を見る鑑賞者にも、錯覚のような線が現れてくる。
この作家の面白いところは、刺繍をした写真側だけでなく、裏側を見せるということ。裏側は購入者ならではの特権であり、アーティストが書いたメッセージなどがある場合があるが、桑迫の場合は刺繍の裏側として線を表すための線あるいは構造としての形を提示する。
美術館の展示の様子を見せてもらったが、作品が宙に浮かされていて、鑑賞者は表と裏を好きなように行き来してみることができた。この展覧会では、作家によって、その事実が伝えられる。隠されていた裏側の秘密を共有することで、共犯者のような内側に入る感覚があった。
糸によって明らかにされた線は、作品にあたる光によって様々な表情を見せる。光を記録する写真を、光によって見え方が変わるようにする。そうしたことに面白みがあった。
写真への刺繍ということで、PHILIPSで見た清川あさみの『imma』展を思い出した。バーチャルヒューマンを撮影し、手仕事の刺繍を施す物質化を行っている。あるいはバーチャル・ヒューマンと実在する人物の写真に施した刺繍はリアルとバーチャルを紡ぐような感覚があった。
糸からの接続だと2021年3月に見た本田莉子のパフォーマンス。
イイダユキは、町に介入するかのような作品を作る。
これは花であり、展覧会の名前、夜になりすますということで、夜に咲く花を表しているという。
異化効果とでも言うべき街への介入、しかしながら、モチーフが強すぎるのか、そうした思考に中々繋がらない。見せ方なのか、どういうことだろうか。しばらく考え込んだ。広がりのある世界へ旅立つ糸口のようなものは見えるが、その一歩が中々出ない。そうしたもどかしさを感じた。
美術館に収蔵された作品も見せてもらった。残念ながらアーティストと話をすることはできなかったけれど、機会があったら、色々と話をしてみたい。