犬を連れて、タイとカンボジアを陸路で渡る

バンコク〜アランヤプラテート〜ポイペト〜シェムリアップ編


バンコクのホテルで一泊した翌朝7:00に、タイとカンボジアの国境の街・アランヤプラテートまで我々を運んでくれるタクシーを予約した。

お願いしたタクシー会社はここ
GOOD Taxi Thai  24 hrs.

愚痴だが、私の夫は無駄に前向きな性格で、
「なんとかなるっしょ」
とよく言う。
で、私は先々のことまで心配する性格なので
「バンコクからアランヤプラテートまで犬を連れてどうやって行くべきか」
を以前から真剣に考えていた。

夫は「国鉄で行けるだろう」と言うのだが、いくらネットで検索しても
「タイの国鉄に犬は普通に乗っていい」
という結果は出てこない。
確かに国鉄に乗れれば格安で行けるが、6時間ほど時間もかかるし、尻も痛いし、犬も騒ぐだろうし、私は電車で国境越えできる自分をイメージ出来なかった。

そういう訳で私は夫を無視し、タイのタクシー会社をいろいろ調べて
「犬とスーツケースと人間2人を乗せてバンコクのホテルからアランヤプラテートまで運んでくれないか」
と聞いてみた。
その中で一番返信の早かったのが、何のひねりも無い社名を掲げる上記のタクシー会社である。
料金は4000バーツ、一般的な値段より1000バーツほど高いが、犬もそのまま乗せてくれるというので、ここにお願いした。
連絡手段はEメール。
ちゃんと当日の朝、約束の少し前の時間にタクシーの写真と共に
「もうホテルの前に着きました」
とメールが送られてきた。

今回の半日のタイ滞在で有難かったのは、みなさん、犬好きだったことである。
ホテルまで迎えに来てくれたタクシードライバーさんも、ウチの犬をあやしながら
3時間の道のりを安全運転で走ってくれた。
途中でサービスエリアにも寄ってくれて、私たちも休憩できた。

道路標識にいよいよ「アランヤプラテート」と現れて、私は緊張し始めた。
無事に犬と共に国境を超えられるのだろうか・・・
3000バーツの賄賂をギュッと握りしめた。

アランヤプラテートでは、タイ語とクメール語が入り混じる。
リヤカーを引いて、国境を渡る人々の荷物運びを生業としているおばちゃんに値段交渉。200バーツ+10ドルで話が通り、私たちのスーツケースと、犬のゲージを彼女に預けた。

「犬はこのまま一緒に歩いて行けばいいのか」
と聞くと、まずは動物検疫所で書類を渡すようにと言われた。

国境の検疫所は簡素な小屋みたいな所で、私は空港でもらった書類を見せ、手数料250バーツを支払った。

「チカエ クマエ(カンボジアの犬)」

と私の犬について説明すると、みんなとてもビックリかつ好意的にしてくれて
「カンボジアの犬にしちゃ綺麗だね」と言ってくれた。
確かに4年半を日本で過ごした私の犬は、年がら年中、暑い中を外で暮らす
タイやカンボジアの犬に比べたら、だいぶ綺麗だ。

さて、いよいよ犬はタイとカンボジアの国境を渡る。
私は、さすがに国境越え時には犬はゲージに入らないと行けないだろう、と踏んでいたのだが、すっかり的外れ。
普通にリードで犬を繋ぎ、お散歩のノリでトコトコ歩いて国境を渡った。
タイからの出国・カンボジアの入国共に、パスポートを職員に見せている私たちの
足元に、犬がいた。

私たちのパスポートにはカンボジアのビザも奇跡的に少し残日があり、そのお陰もあってかなり速やかに入国手続きができた。

入国手続きを終えると、荷物運びのおばちゃんがカンボジア側の国境の街・ポイペトで待っていた。
そしてその横に、私が会いたくてたまらなかった人、サンがいた。

「ケン、レナさん、久しぶり!」

サンは長年の友であるカンボジア人。私たちと同級生の43歳だ。
今回、国境まで迎えに来てもらえないかお願いしたところ、快くOKしてくれた。

サンの顔を見ればもう安心だ。私は無事に、犬と共に陸路で国境を越えられたことを確信する。

サンの車でポイペトから3時間ほど、私の犬・クジラの生まれ故郷でるシェムリアップに運んでもらった。

この日に泊まった宿はここ
Palm Village Resort

日本にて、これまた
「シェムリアップ ホテル ペットフレンドリー」
と検索した。

このホテル、実は、認知症になり始めた私の母がカンボジアに遊びに来たときに泊まったホテル。
アンコールワットに近く、繁華街からは離れたコテージタイプのホテルだ。

なぜペットフレンドリーなのかといえば、このホテルのオーナーも犬二匹を飼っており、敷地内をブラブラ歩いていた。

「ケン、今回はお金は支払わないでね」

サンが好意で足速に去ろうとするので、夫と私は
「いやいや、ダメダメ」
とサンのズボンのポッケに御礼をつっこむ。

「ダメだよぉ〜」

サンが夫に抱きつき、私はしばらくオッさんどうしのイチャイチャしたじゃれ合いを無言で見つめた。
カンボジアでは、このオッさんどうしのじゃれ合いをよく見る気がする。
人と人との距離が物理的に近い。

さあ、これで、犬と共に日本からカンボジアへ引っ越す旅は終わった。
ここからは、本当に「なんとかなる」
家を探し、翌々日には無事に一軒家へと引っ越しができた。

「おかえり、クジラ」

私の犬はわりと薄情だが、以前、一緒に暮らしていたカンボジアの若者たちのことをちゃんと覚えていて驚いた。
警戒心が強い犬なのに、数年ぶりに会った彼らに尻尾を振り、お腹を見せて
甘えたのだ。

私は、カンボジアの人と犬との関係が好きだ。
ペットというより「良きパートナー」という感じがする。
どこの家の前にも犬がいて、その家を護っている。(まあ、その犬たちのせいで怖い思いをすることも常なのだが)
クジラの中にも、太古の昔から犬に備わるその本能がある。
クジラ9歳、残りの人生を、自分の中に湧き出る使命感と共に、伸び伸び健やかに故郷で人生を過ごして欲しい。

ところで、私が握りしめていた国境で渡すはずの賄賂3000バーツだが、結局は支払わなかった。
国境のどこにも賄賂を渡す場所やタイミングはなく、
「3000バーツ払えば通してあげるよ」
という国境職員からのメッセージは、かなり個人的なものだったようだ。

もし、動物と一緒に国境を渡る方がいれば、伝えたい。

賄賂は、要らない。


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