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ANOTHER STORIES OF INSIDE BLUE ―― インサイドブルー外伝


※この記事は、ゲームマーケット2022春に発売した、「INSIDE BLUE OFFICIAL BOOK」内のコンテンツ「ANOTHER STORIES OF INSIDE BLUE
インサイドブルー外伝」
です。

記事単体でも購入できますが、マガジンでの購入がお買い得でおすすめです。

※記事内にはネタバレを含む部分がございます。

必ず、『POLARIS-02: インサイドブルー』をプレイしたうえでお読みください。



ANOTHER STORIES OF INSIDE BLUE
ストーリーゲームレーベル POLARIS 第二弾『インサイドブルー』。
シナリオの鈴木禄之による、『インサイドブルー』のアナザーストーリーをお届けします。

インサイドブルー外伝 ミズキ

 母の顔を覚えていない。
 最後にどんな言葉を交わしたのか、覚えていない。自分が泣いていたのか、怒っていたのかも、覚えていない。
 はっきりと記憶にあるのは、遠のいていく両親の後ろ姿と、背中に添えられた叔母の手。
 ぼんやりと覚えているのは、このまま後ろに倒れても、きっと自分は怪我一つしないだろうと安心したこと。
「大丈夫、大丈夫だから」
 耳元で、そう何度も呼びかけられたこと。

「いい加減起きなさい」
 ミズキは目を開けた。途端、意識が飛びかける。開け放たれた窓から差し込む、真っ白な光を直接見てしまった。情けない悲鳴を上げて目元をこするミズキの姿に、叔母は呆れたように笑う。
「何回呼んでも起きないから」
「起きてるよぉ」
 実際、起きてはいたのだ。ただ体を起こすのが億劫で、横になっていただけで。五分、十分と、気づけばかなりの時間が経ってしまっていただけで。誓って起きてはいたのだ。それをそんな、子供を𠮟りつけるみたいに言うのは勘弁してほしい。あとどうせ起こすならもう少し早く声をかけてほしい。たぶん遅刻だ今日。
 今更アラームを鳴らしているスマホを枕元に放って、体を起こす。背伸びをすると、全身がぎしぎしと音を立てた。重たい体を引きずり、洗面台の前に立つ。切れ込み程度に開いた目に映る、鏡越しの自分の姿。ぼさぼさにほつれた髪、腑抜けた表情。
 実体として、今ここにある自分。ほんの数日前まで、この体はここになかった……なんて、やはり荒唐無稽な話だ。

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