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『客観性の落とし穴』村上靖彦(2023)
村上靖彦氏の著書『客観性の落とし穴』は、現代社会における「客観性至上主義」への批判を通じて、個々の経験や感覚の重要性を再認識させる一冊です。本書は、数値化やデータに過度に依存する現代社会の問題点を指摘し、主観的な経験や感覚の価値を見直すことの必要性を説いています。
主な内容とポイント
1. 客観性の起源と発展:
村上氏は、客観性がどのようにして現代社会で重視されるようになったかを歴史的に考察しています。科学の発展や合理主義の台頭により、数値やデータに基づく客観的な判断が信頼されるようになりました。しかし、その背景には、個人が未来のリスクに備える必要性や、他者を説得・管理する手段としての数値化の役割があったと指摘しています。 
2. 客観性至上主義の弊害:
現代社会では、成績、順位、偏差値、売上など、あらゆるものが数値で評価され、人々の行動や価値観が統計やランキングによって左右されています。このような状況は、人間らしさや個々の経験の豊かさを奪い、優生思想や効率主義が蔓延する原因となっています。 
3. 主観性と生きた経験の重要性:
村上氏は、数値化や客観性が真理とみなされる現代社会において、主観的な経験や感覚の重要性を強調しています。生き生きとした経験を捉える哲学を提案し、人間らしさを取り戻すためには、数値や客観性に頼らず、自分の感情や経験を言葉にすることが重要であると述べています。 
4. 客観性からの脱却方法:
本書では、過剰な数値化やデータ化から脱却するための具体的な方法が提案されています。例えば、数値や客観性は真理ではなく一つの見方に過ぎないと認識し、自分の価値観や目標を見つめ直すこと、統計やランキングに惑わされず、自分の生活や社会のリズムに合わせて時間の使い方や過ごし方を工夫することなどが挙げられます。 
5. 現代社会への提言:
村上氏は、客観性と主観性のバランスを考える上で、主観的な経験や感覚にもっと目を向けることで、より豊かで人間らしい社会を築くことができると提言しています。教育、医療、ビジネス、そして日常生活においても、個々の経験や感覚を重視することの重要性を訴えています。 
『客観性の落とし穴』は、数字やデータに頼りすぎる現代社会に疑問を感じるすべての人にとって、自己の思考習慣を見直し、深い理解を得るための指針を提供する貴重な一冊です。本書を通じて、客観性と主観性のバランスを再考し、より人間らしい社会の構築を目指すことが求められています。