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『論点思考』内田和成(2010)
内田和成の『論点思考』は、効果的な問題解決のために「論点(Key Issue)」を正しく設定することの重要性を説くビジネス書である。著者は、長年のコンサルタント経験をもとに、「正しい論点を見極めることで、最小の労力で最大の成果を得ることができる」と主張する。
論点思考とは何か
「論点思考」とは、問題解決の際に「何を議論すべきか」を明確にし、無駄な議論や不要な情報収集を避け、効率的に結論を導く思考法である。
多くの人は問題に直面すると、「とにかく情報を集めよう」とするが、著者はそれを「思考停止の情報収集」と批判する。なぜなら、必要な情報は「論点」が決まって初めて明確になるからだ。
例えば、売上が伸び悩んでいる企業があったとする。ここで重要なのは、「売上が伸びない理由は何か?」ではなく、「売上を伸ばすために解決すべき最優先の課題は何か?」を特定することである。つまり、論点とは「本当に解くべき問題」を明確にするための指針なのだ。
論点思考のプロセス
本書では、論点思考の具体的なプロセスを以下の3つのステップで説明している。
1. 論点を設定する(何を考えるべきかを決める)
論点とは「解くべき本質的な問い」のことであり、適切な論点を設定することで、無駄な情報収集や議論を防ぐことができる。論点を設定する際のポイントは次の2つである。
• 「議論すべきポイントか?」
単なる情報やデータではなく、「意思決定につながる問い」になっているかを確認する。
• 「問題の本質を突いているか?」
表面的な事象ではなく、根本原因や戦略的な意思決定につながる問いになっているかを考える。
例として、「新規市場に進出すべきか?」という問いを考えるとき、
「市場規模はどれくらいか?」は情報の一部であり、「我が社の強みを活かせる市場か?」が論点となる。
2. 仮説を立てる(論点に対する答えを考える)
論点を設定したら、それに対する仮説を立てる。これは『仮説思考』と共通する部分であり、結論を出すための仮説を先に考え、それを検証する形で情報収集を進める。仮説が間違っていた場合は修正し、新たな仮説を立て直す。
例えば、「新規市場に進出すべきか?」という論点に対し、「我が社のブランド力を活かせる市場なら進出すべき」という仮説を立て、その仮説を検証するためにデータを集める。
3. 検証・結論を出す(データをもとに意思決定する)
仮説をデータや分析を通じて検証し、最も妥当な結論を導く。この段階では、「決めること」が目的であり、すべての情報を完璧に揃える必要はない。十分な確度で意思決定できる段階になったら、速やかに結論を出し、行動に移す。
論点思考の活用方法
本書では、論点思考を実際に活用するためのポイントとして、以下の点を挙げている。
• 論点を分解する(ロジックツリーを活用)
一つの論点が大きすぎる場合、小さな論点に分解すると考えやすくなる。例えば、「売上を伸ばすには?」という論点を、「顧客単価を上げる」「販売数を増やす」「新規顧客を獲得する」などに分解する。
• 論点を優先順位づけする
すべての論点を検討するのではなく、「最も影響の大きい論点」に集中することが重要である。
• 論点を明文化する
問題解決の議論をする際、論点があいまいなまま話し合うと、無駄な時間がかかる。論点を明確に言語化することで、チーム内の認識を統一し、議論をスムーズに進めることができる。
論点思考がもたらすメリット
論点思考を実践することで、次のようなメリットが得られる。
1. 意思決定のスピードが向上する
何を考えるべきかが明確になるため、無駄な情報収集を省き、迅速な意思決定ができる。
2. 問題解決の精度が上がる
表面的な事象ではなく、本質的な問題にアプローチできるため、的確な解決策を導き出せる。
3. 議論の質が向上する
「何を話せばいいのかわからない」といった無駄な会議を減らし、意味のある議論を行うことができる。
まとめ
『論点思考』は、問題解決において「何を考えるべきか」を明確にすることで、最小の労力で最大の成果を得る方法を解説した本である。従来の「情報収集→分析→結論」という流れではなく、「論点設定→仮説立案→検証→意思決定」のプロセスを意識することで、効率的かつ戦略的な問題解決が可能になる。
本書は、経営者やコンサルタントだけでなく、あらゆるビジネスパーソンにとって有益な思考法を提供しており、会議や意思決定の場で活用することで、より的確な判断ができるようになる。