無心に眺めるに至る奈良美智ワールドツアー 〜森美術館STARS展 (後編)
森美術館で開催中のSTARS展 奈良美智について書いている。奈良ブースは2つのスペースで構成されている。まず、《作家の部屋の中から》というインスタレーション。CDやレコード、小物、写真、本、DVD、初期絵画による作品だ。
まるで作家の宝箱の中身を見せてもらったようなちょっぴり甘酸っぱい気持ちにさせられた。前編で書いているのでご覧いただきたい。
本日は後編、夜空にお月様のいる展示スペースについて書いていきたい。《Voyage of the Moon(Resting Moon) / Voyage of the Moon》(2006年)や新作《Miss Moonlight》(2020年)が展示されている。
そこへ入った途端、藍色とレモンイエローの色彩により奈良ワールドへ一気に誘われる。
1. 《Voyage of the Moon (Resting Moon) / Voyage of the Moon》(2006)
真っ先に近づいたのがこの小屋。暗い夜道を彷徨っている中で、窓明りに郷愁を覚えるような具合だろうか。小屋の外の人の気分を味わう。
子供がこっちを睨んでいる。何に怒ってるの?
お大福のようなおいしそうなお月様を下からぐるりを眺める。粉をまぶしたような、柔らかそうにぷっくり膨らんだ頰。平和のシンボル。
屋根がいい。似たような形が重なり合う集合体。鎖骨の下あたりが少々ざわざわするけど見てしまう質感。心惹かれる面模様。
扉がある。部屋の中を覗かせてもらおう。音楽が鳴っている。椅子の上には手書きのプレイリスト。可愛らしい小物がいっぱい。
作業台のまわりにはドローイングが貼ってある。静かな夜に小さな部屋で好きな音楽を鳴らしながら、赴くままに描いて、描き続ける。
ひとりぼっちじゃないと省みられない感情や湧いてこないインスピレーションがある。孤愁を愛する小屋の中の人の気分を味わう。
2. 《Lonley Moon / Voyage of the Moon》(2006)
小屋の窓から眺められるような場所に、大きな皿状のお月様が浮かんでいる。優しく穏やかな顔をして小屋の方を見ている。
小屋の窓からは、怒った顔を覗かせているのにね。愛が欲しくて怒るのか、愛されてるから怒るのか、愛したいから怒るのか。小屋の住人を想像する。
3. 《Miss Moonlight》(2020)
絵の前には椅子が置いてあるので座って長いこと眺めることができる。部屋の窓からお月様を飽きずに眺めている時のようだ。
たなびく雲に隠れた月をじっと待ってる時のように。見えるようで見えない複雑な輝きの中に兎を探すように。ただただ眺める。
4. Stars展 奈良美智を観て
《作家の部屋の中から》では作家の背景から始まり、 《Voyage of the Moon 》ではインスピレーションが湧き上がっていく過程、そして最後《Miss Moonlight》では渾身の新作を見せてもらうという奈良美智ワールドツアーを楽しませてもらった。
最後の作品を無心に味わうために仕立てられたコースになっていたと思う。何かを学びとろうとか、何かを得ようとかではなく、無心に眺めるという贅沢を味わわせてもらった。いい旅だった。