試し書き2

「正直、久々に神経にキた」
 戻るなり、開口一番ナナバが言った。
 ミケが無言で差し出すコーヒーに礼を述べてため息を付く。
「どうして、あぁなったのか…「いつから」なのかが気になるところ…」
 疲れを隠さずに述べられた同僚かつ恋人の感想に、何を言うでもなく、ミケはその頭を撫でた。職場でやめてよと言うが、ちゃんと人がいないタイミングを見てしていることは理解してくれているようで、それ以上のお小言はない。
「偶然の再会ではないということか?」
「そう」
 麻薬取り締まりで踏みこんだ相手はまさかの縁。エレン・イェーガー。名前から、まさかとは思っていたけれど、同姓同名の別人などということがあるわけがなく。
「…こんな状況での再会なんてね…」
 現世では初対面の相手。ましてや状況が状況だ。そこまで接点があったわけではないが、感動の再会などというわけにはいかない。記憶はないように接したという。
  短いつぶやきに隠された嘆きを察したミケはもう一度頭を撫でて言った。
「…俺はさほど悪いもんじゃないと思っている」
 だから、また会えてすぐに恋人になれた。言外に語るのはミケの優しさ。
「エルヴィンには?」
「言うわけないでしょ。捜査内容なんだから」
 麻薬取締で踏み込んだ、半グレの部屋。令状を突き出し踏み込んだその先に、ベッドに拘束されたリヴァイがいた。床には何本もの注射器。全裸で肌に散る朱が、ここで何がなされていたかを物語っていた。
「意識はあるんだかないんだか。私のことは分からなかったみたいだけど、搬送中に何度か確かに呼んでた「エルヴィン」って」
 さらにナナバの気を滅入らせたのはエレンの部屋だ。パソコンデスクの周囲、壁という壁にリヴァイの写真。だが、その部屋の中で異質さを放ていたのはネットから拾ってきたと思われるエルヴィンの写真にドライバーが突き立ててあったことだ。異常な正常のなかでの最高の異質。
「あんな形で本人を手に入れてなお、恋敵に憎悪する心にゾッとした部屋だった」
「理解はできん。そんな形で相手を手に入れようとする神経も、恋敵の写真とは言え、そんなことをする神経も」
「…叶うなら、エルヴィンに伝えてやりたい「リヴァイはあそこだ」って」
「ナナバ…、きっとあの二人なら必ず巡り合う」
 職業上得た情報、ましてや警察の情報を外部に出すわけにはいかない。なにより、あんな状態のリヴァイに会わせるのは残酷な話。
 2人だけとなったオフィスで、嘆きを溜息に乗せて吐き出す優しい恋人の頭を、ミケは撫で続けた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?