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(ネタメモ。 進撃 エルリ 現パロ)名前は何人か出るけど大学生ハンジとリヴァイ。社会人(偉い)エルヴィン前の続きメモ。


 洗濯をしてしまうから、その間にシャワーを浴びろと言われた。湯船で温まって欲しいところだが、その顔色で浸かるのは危ない。至極真面目にいうエルヴィンに苛立った。別居だろうが単身赴任だろうが妻帯者の家で風呂に入れるほど無神経じゃない。
「…お前の嫁は、どう思うだろうな」
 知らない人間を家に上げて、風呂を貸した。良く思うわけなどない。
 自分が加害者だという意識からなら無理やりでも救急車を呼んで弁護士でもつければいいだけの話だ。だが、エルヴィンは明確にリヴァイにに近づく意思を示し、「探した」と言った。
「嫁?…あぁ、これはもう必要ないな」
 言いながら、左の薬指から指輪を抜いた。
「おい」
「これはただの女性除けだ。この歳でこの職業で独身だと色々と面倒があるからな」
「……嫌味な野郎だ」
 リヴァイのその言葉に、エルヴィンはニコリと笑うだけ。
「さぁ、心配事がなくなったらシャワーへ行きなさい」
 命令口調。完全なる子ども扱い。何様だと一瞬だけ思うが、嫌ではなかった。


 …デカイ。
 まぁ、見ればわかるが、デカすぎるだろ。
 着てみてそう思って、洗面所の鏡の前で改めてそう思う。
 洗濯が終わるまで着ているようにと差し出されたのはガウンだった。当たり前だが、エルヴィンのものだ。柔軟剤だろうか、フローラルな香りに混じって、微かにエルヴィンの匂いがする。
 前をどんなにキッチリ合わせてもダブつくのを諦めて、袖を折り曲げて腰紐を些かきつめに結んで出た。
「出たか、今紅茶を淹れているから適当に座ってくれ。…君は幾つだ?」
 ストレートでいいと応えると笑われた。砂糖じゃなく年齢の事だったらしい。
「21だ」
「なら、蜂蜜とブランデーを少し垂らそう。その方が温まる」
 未成年かどうかの確認だったらしい。


 …それしかないのだから仕方がないのだが、これは余りにも…。
 自分で差し出しておいて、他がなかったのかと今更ながらに考える。夢で想っていた相手が、素肌に自分のガウンをひっかけただけで目の前にいるという状況がとんでもなく危うい気がした。
 L字のソファで端と端。距離があるのは仕方がない。
 そこまで考えて、ふと思う。「彼」を忘れようと何人かの女性と付き合いはしてきた。それは事実だ。だか一度でも男と付き合おうと思ったことが自分にあるのだろうか。…否だ。
「おい、いつになったら俺の服は乾くんだ?」
 1時間ぐらいだろうと返すと、そうか、とだけ。あちらから会話をする気はないらしい。
「…君を家に連れてきたのは、当然、それなりの下心があってのことだ」
 急に眼が険しくなった。無理もないが、勘違いしてもらっては困る。手順はちゃんと踏む。
「君も、私と同じ夢をみているのか?」
 …夢なんか見ていない。
「何の話だ」
「…子供の頃からだ。忘れもしない12歳のクリスマスから夢を見る。最初は君をとても薄暗い街で追いかけている夢から始まった。…長くなりそうだ。何せ20年以上続いた夢だからな」
「…聞かせろ。聞いてやる」


 …コイツ、夢だと思っているだけで、記憶を持っている。
 そう思た。一々明確過ぎる。
 刃を手で受けたこと、その後で言った言葉。腕を無くしたこと、処刑寸前だったこと、…何よりも死の間際。死んでからは「見ていた」と穏やかに語る。しかもそこに齟齬が産まれない上に、事象は当然のようにリヴァイの記憶と一致する。
「エルヴィン、お前…」
「…。そろそろ教えてくれないか、何故君は私の名前を知っている?同姓同名の別人、なんてこと以外なら信じる自信がある」
 大仰に手を広げてリヴァイに話す様に促す。
 だが、必要なのは自信じゃなくて覚悟だと前置きと溜息の後、リヴァイは口を開いた。
「聞きたいと言ったのはお前だ。調査兵団13代団長」
 王都の地下街での出会い、ゴロツキの自分を調査兵団へ入団させたことから始まり、命を落とす所まで。端的だが、しかし慎重に話を進めた。何も知らない奴が知るにはショックがでかすぎる筈だと気遣ったのだ。
 エルヴィンは本当に疑っていないのかと、逆に疑いたくなるほど素直に聞いている。投石での負傷で命を落としたと言ったあと、リヴァイは口を噤んだがエルヴィンはそれを許さなかった。
「…まだ言っていない事があるだろう」
 あぁ、あの時の目だ。作戦を告げる時を思い出す眼差し。…逃れることは許さないと語る瞳。
「…俺は、お前を殺した。言葉で頼んで、実行させて、…助けられたのに見殺しにした」
 暫くの沈黙。数秒がとてつもなく長く感じた。
「…俺が、殺した」
 エルヴィンが立ち上がる。
「それが、お前の素直な気持ちか?」
「あぁ」
 …だから俺には、本当は口にすることも願うことも許されないのだろう。
「良かった。ちゃんと否定できそうだ。…あの時、お前は私を救ってくれた。…記憶があったのは辛かっただろう…リヴァイ」
「!!」
「…夢を諦めて死んでくれと言われた時、私は心底ほっとした。「これで終われる。解放される」お前が、救ってくれた」
「…お前……」
 夢で見た断片。パズルのピースは全て嵌った。
思ったような衝撃はなく、土に水がしみこむかのように記憶が自分に馴染んでくる。
「覚えてなかった奴がほざくな…っ」
「…忘れてたわけではない、思い出せなかっただけだ」
 …その証拠に、お前をずっと探していた。
 夢をみるようになってから、ずっと。

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