生きづらさと傷を抱える、優しいひとへ―『Dreamin' Her - 僕は、彼女の夢を見る。-』
2022年4月28日、あるひとつのゲームがリリースされました。タイトルは『Dreamin' Her - 僕は、彼女の夢を見る。-』。2020年8月からクラウドファンディングが実施され、そこから1年10ヶ月ほどかけて待ちに待ったリリースとなりました。
ご存じの方もいるかもしれませんが、私はゲームをほとんどやらない身でして、なんで急にゲームの話をするのかと思うのかもしれません。この作品に縁ができたのは、推し―ヒロインを演じる声優・村上奈津実さん目当てでクラウドファンディングに5万円を突っ込んだのがきっかけです。
この作品はテキストアドベンチャーゲーム、それもいわゆる「ギャルゲー」に属するタイトルであり、そのジャンルにはからっきし縁のなかった私ですから、支援したのはぶっちゃけリターン(村上さん直筆サイン入り色紙やら何やら)目当てでした。ところがどっこい、プレイしてみたらとても良い作品でして…というかこの作品が世に広まらないと勿体ないとすら思い、こうして筆を執っている次第です。
というわけで、今回は珍しくゲームのプレイ感想のようなものをお届けします。ただこの作品、ネタバレ非推奨極まりないため、今回はネタバレなしで未プレイの方向けのオススメ文のような形とします。
語るよりもまず先に、オープニングムービーでも観ていってください。
だいぶ力の入ったオープニングムービー、良いですよね。「ギャルゲー」と言われたときに思い抱くイメージは覆ると思います。自称「ギャルゲー的ななにか」らしいのですけれども(Steamでの説明文より)。
主人公・五十嵐蒼の視点で進む作品で、一度疎遠になった幼馴染・七瀬未来が再び現れるところから物語は始まります。前置きと言うというには長い前置き…Aパートとでも言うべきでしょうか、その間は未来と過ごしている時間を多く楽しめます(それこそ「ギャルゲー」という感じ)。暗い過去や息苦しい現在のシーンも交えるのですが、それゆえ未来と過ごす時間が救いのように感じられるのが生々しい部分でもありますね。
Aパートのおすすめポイントといえば、とにかく未来がかわいいこと。未来を演じる村上さんにとって、正真正銘の「正統派ヒロイン」を演じることはおそらく初めて。主人公を演じた『ミュークルドリーミー』はギャグアニメですし。それだけに、村上さんのファンにとって未来と過ごすシーンは必見。本当にいくらでもニチャニチャできます。特に村上さんのファンではないよという方にとっても、未来のかわいらしさには癒されること間違いなしです。
未来から拒絶されたことをきっかけに始まるBパート(あるいは本編)では、未来にそっくりな少女が夢の中に現れます。その少女は現実の未来と区別するため架子と名乗りますが、明るくも芯が強く、人知れぬ何かを抱えているような未来とは少し異なり、優しく人懐っこいのが特徴的。この架子がまたかわいらしいですし、未来と架子のダブルヒロインを演じる村上奈津実さんの演じ分けも感じ取っていただきたいですね。
さて、この作品のAパートの後半からBパートの間はだいぶ、というかプレイしていて若干しんどいくらいには話が重たいです。企画・シナリオ担当すら上に引用したような発言をしているくらい、描写的にキツい(エログロとかではない)部分も多くあります。ただしそれは引用した通り、主人公・蒼の置かれた現実をきちんと描かなければならなかったからであり、しっかりと作品の構造を考えているからこそです。
そしてこの重たい部分を乗り越えて物語を読み進めれば、感情が揺さぶられるクライマックスと真実にたどり着くことができます。終盤は未来と架子の感情も大きく動くことになりますが、両方を演じる村上さんの演技がまた見事なもので…。ネタバレ抜きに語ることができないのがもどかしい限りですが、ただの「ギャルゲー」だと甘く見てかかると返り討ちに遭います(私がそうでした)。深みのある物語が好きな方には是非とも最後まで楽しんで欲しいです。
そのクライマックスに至るまでも、優しく包み込んでくれるような話がされるのがこの作品の大きな特徴。苦しい現実に生きるなかで、望んでもいないのに誰かを傷つけてしまうことを蒼は深く思い悩みますが、そんな時も夢の中で架子は寄り添ってくれます。誰だって完全に善良であることなんてできない、そうやって誰かを傷つけたことで負った傷もあなたの一部なのだから、と。
この作品で描かれる現実の苦しみは、特別痛烈なものというわけではなく、生きていくなかで徐々に息苦しくなっていくような、きっと多くの人が感じたことのあるようなもの。だからこそ蒼の感じる苦しみが生々しく感じられますし、生きているなかでいつしか傷だらけになり、どこか生きづらさを抱えた人にとって、この物語には深く刺さるものがあるはず。もちろん誰でも楽しめる作品だと思いますが、この世界に息苦しさを感じる人にこそ届いて欲しいですし、この作品を通して生きることに少しでも前向きな気持ちが芽生えてくれたらと思っています。
物語を中心とした魅力を簡単に語りましたが、あとは何と言っても美しく神秘的な世界観でしょうか。架子の他には誰もいない、夢の中に広がる現実離れした美しい世界。個人的な好みに過ぎませんが、こういうのにはちょっと憧れてしまう身でして。神秘的な世界に二人きり、みたいなの良いですよね…。
あとエンディングまでプレイすると非常に感じるのですが、未来みたいな子が身近にいてくれたら、と。それだけ魅力的な物語ということでもあるのですが、人によってはある意味精神的ダメージが入るかもしれません。でもそれもまた一興だと思います(笑)
クラウドファンディングというものに今までほとんど(というか全く?)手を出したことがなく、初めてでまさか「ギャルゲー」に結構な金額を突っ込むことになるとは思わなかったのですが、こうしてこの作品が形になったことで思います。支援者として名を連ねることができて本当に良かったと。ハンドルネームとはいえ自分の名前、大げさに言えば「生きた証」を、この作品で残すことができたのですから(なんか意味深に聞こえてくるけどそんなことないからね!)。
この作品はPC向けゲームプラットフォーム・Steamで配信されていますが、価格は2,480円と比較的手を出しやすい部類。テキストメインのゲームだけに大したマシンスペックも要しませんし、ボイスまでじっくり聴きつつ複数エンディングを踏んでも6時間くらいで終えられるので、物語をひとつ読もうかくらいの気持ちでプレイしてみてください。「ギャルゲー」にしてはボリュームが控えめのようですが、逆に私みたいな「ギャルゲー」に慣れていない人がやってみるには良いのではないでしょうか。
私は物語に比重をかなり置くオタクなので、キャラクターがかわいいだけの作品になったら困るな…と思っていたのですが、それは全くの杞憂でした。分岐も少なく物語が概ね一本の筋になっているため、ノイズが少なく浸りやすい作品になったと思います。それゆえプレイ動画を見れば物語を全部読めてしまうのですが、心に深く刺さる作品だからこそ自分でプレイしてみて欲しい。自分のペースで読み、聴き、きちんと物語を咀嚼して飲み込んだときに得られる感動があると思います。
そして最後にもうひとつの推しポイントなのですが、冒頭に載せたオープニングムービーで流れている主題歌、「おやすみモノクローム」がめっちゃ良いんですよ。これも個人的な好みなんですけど、こういう美しくかつ力強さのある楽曲が大好きでして。作品の美しい世界観と物語に沿って作られている素敵な楽曲だけに、最近ずっと聴いているくらいです。ですから値段はだいぶ上がってしまいますが、この楽曲をフルで手に入れられるサントラCD付き限定版パッケージもオススメします。ご予算が許せばぜひ。
というわけでここまでざっくりと、『Dreamin' Her - 僕は、彼女の夢を見る。-』のネタバレなし感想とオススメ文をお届けしました。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。私の拙文でこの作品の魅力が伝わるか不安なところではありますが、支援者として、一人でも多くの方がこの作品を手に取っていただければ幸いです。あと、村上奈津実さんのファンの方は絶対プレイしましょう。
それから半ば宣伝で恐縮なのですが、この作品から村上奈津実さんが気になったという方がもしいらっしゃれば、下記のサイトを参考にしてみてください。一緒に村上奈津実さんを応援してくださる方、いつでもお待ちしています。
今回はネタバレなしで書き進めましたが、ネタバレ含めた突っ込んだ感想もそのうち書きたいと思っています。伏線も多いので少なくとも2周は必須ですし、それでもなお理解できていない部分もあるので、その辺含めて答えが欲しい…と思ってしまうのは私の悪い癖でしょうか。書き上げた際には、「このゲームを最後までプレイしたうえで」またお付き合いいただければと思います。
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