捨てないで。
私たちは狭くて寒い部屋に押し込められて、毎日じっとお客さんを待っている。
透明な扉から覗き込む好奇の目に耐えながら。
目新しい子が次々現れるこの業界は、入れ替わりも激しい。
今日はなんとか大丈夫、でも安心はできない。
明日は目立たない隅っこに追いやられるかも知れないし、ひょっとしたらもう、不要だと烙印を押されてしまうかも知れない。
そんなプレッシャーに押しつぶされそうで、私は毎日辛い気持ちを必死にこらえていた。
でも。
あなたは私を選んでくれた。
たくさんのライバルたちの中から、私を。
品定めするような視線に、思わず何度もうつむきたくなったけれど。
やがてあなたは決心したように小さくうなずくと、扉を開けて、私を外に連れ出してくれた。
私たちを管理している人に規定の料金を払うあなた。
たったこれっぽちのお金で、私はあなたに買われてしまった。
でもいいの。
私はあなたの思うまま。覚悟はできてる。
あなたは私を店の外に連れ出すなり、私の腰にまわしていた手に力をこめ、唇を近づけてきた。
いきなり?
そう思ったけれど、私は抗うことはできない。
やがて、ふう。と小さな息をつき、あなたは満足そうに微笑んだ。
強引なのね。でも、そんなあなたも素敵だと思う。
・・・大好きよ。
だから。
終わったあとも、
・・・あっさり捨てたりしないでね。
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コンビニのゴミ箱の前で転がっている空き缶の気持ちってこんな感じかな。
ポイ捨て、あ缶、なんちゃって。
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