タカラモノ 2/3
酔ってる?と聞くのがはばかられるほど、彼女は酔っていた。
僕よりも終電の早い彼女を気遣って、できるだけさりげなく腕時計を見たつもりだったけれど、とろんとした目をした彼女はそういうところだけはめざとく見咎める。
「何?もうそんな時間?」
慌てて横に置いてあった鞄を引き寄せようとする彼女を引き止めた。一人ではとても電車になんて乗せられない。
せめてタクシー乗り場まで一緒に行こうと思い、僕も席を立った。そこで、急に気が変わった。
「明日休みだったよね。せっかくだから、もう1軒行く?」
・・・きっと、僕も酔っていた。
「大丈夫だから!」
ちっとも大丈夫には見えない足どりで、それでも一人で帰るから、と彼女は言い張った。
支えようとする僕の手を邪険に振り払い、家まで送っていくという僕の言葉にもまったく耳を貸そうとしない。
そのくせ、
「タクシー乗り場はどっち?」
と首を傾げる様子はあまりにも頼りなく、僕は途方に暮れる。
ふらふらと僕の三歩先を歩いていた彼女がよろけた。
つまずきかけてぎりぎりのところで体勢を立て直し、またふらふらと歩き出す。
見ていられない。僕は早足で彼女に追いつき、右手を強くつかんだ。
意外なことに、彼女は僕の手を振り払わなかった。
僕は彼女の手をつかんだまままっすぐまっすぐ歩き、薄暗い通りへと向かった。
暗くした部屋で彼女を抱きながら、僕はつまらないことを思い出していた。
子どもの頃のささいなできごと。
お祭りで売っていたラムネ。
青い瓶のわずかな空間に閉じ込められたビー玉。
瓶を逆さに振ってもからりからりと小さな音をたてるだけのビー玉。
届きそうで届かない。手に触れられない。
結局僕はどうやってあのビー玉を取り出したんだっけ。
僕の動きに、目を閉じていた彼女が小さく声をあげる。
そうだ。思い出した。
僕はあのビー玉がどうしても欲しくて欲しくて、瓶を地面に強く叩きつけたんだった。
ラムネの瓶は、粉々に割れた。
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