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運命のヒト
お題
『幸せな空気に満ち溢れた披露宴。
新郎・新婦の入場から、ずっと何事も無く進行していたのだが、新郎の会社の同僚という男がスピーチのためマイクの前に立った瞬間から、披露宴会場は誰もが予想できなかったほどの大パニック状態に陥ってしまったのだった。
果たして何が起こったのか?』
******
結婚式とかさー。披露宴とかさー。
どうしてこう毎回かわりばえしないのかしら。
自慢じゃないけど私、披露宴に関してはセミプロよ?
だてに何度も何度も出席してきたわけじゃないわよ?
このホテルでの披露宴に呼ばれるのなんて、実はこれで3回目よ?
乾杯前のあいさつをした、新郎の恩師だっけ?
もう古典になっちゃってるような言い回しを平然と使うんだもん。あきれちゃう。
いまどき「3つの袋」の話なんて!
「結婚生活に必要なのは、お袋、堪忍袋、給料袋です」
って、もう何回聞いたことか。
私だったら、こう言わせてもらうわ。
「いちばん大切なのは、新郎の『胃袋』です!」
これからずっと、高校時代に家庭科の成績が2だった彼女の手料理を食べなくちゃいけない新郎にこそ、エールを送るべきよ。
それに!
新郎もさあ、前から思ってたけど、やっぱり見栄っぱりなのね。
司会者が生い立ちを披露していたとき、みんな聞き流してたけどさあ。
「新郎のタカシさんは、○○高校を優秀な成績で卒業されたのち、××大学を経て・・・」
うん。確かにウソはついてないわよね。経歴詐称じゃ、ない。
でもね、××大学には8年通って除籍になったんじゃなかったっけ?「経て」って、微妙な言い回しよね。
わ。やっぱり出た。
新婦の幼ななじみによる、歌のプレゼント!
こういうのって必ず、2人とか3人で出てくるのよね。
前もってちゃんと打ち合わせはできているはずなのに、壇上で真ん中のポジションの譲り合い。
小さく「せーの!」とか、声をそろえて「幸せになってね!」なんて言っちゃうわけ。
みんなで答辞を読み上げる、小学校の卒業式じゃないんだからさあ。
あ!だめだめ、いまどきそんな歌チョイスしちゃったら!世代がばれちゃうじゃん。もう。
だいたいさあ、私、今、ものすっごくおなかすいてるのよね。
今日のドレス、実は去年妹の結婚式で来た時のものの使いまわしだし。
ウエストの辺りが微妙に苦しかったのを、ここ数日の食事抜きでなんとか切り抜けてるわけなんだけど。
そのうえ今朝は早くから美容院にセットの予約入れてたものだから、朝ごはんも食べてないし。
つまんないスピーチが終わらないせいで、目の前にあるせっかくの料理が冷めちゃうじゃん。
「・・・ではここで、新郎さまの会社でのご友人、スズキヒロシさまによるお祝いのお言葉を」
ちょっとお?まだあるの?スピーチ。
うんざりして顔を上げた私がそこで見たのは、
「あーーーーーー!!!!」
・・・・・・
・・・・・・
はっきり言って、そのあとのことはあんまり覚えていないのよね。
そりゃ、悪かったとは思ってるわよ。
彼女の一生に一度(かどうかはわかんないけど)の披露宴を台無しにしちゃったことは、確かに反省してる。
でもさあ、なにしろ無我夢中だったんだもの。
司会者から名前を呼ばれたその男が立ち上がって壇上に歩いて行った時、私、
運命を感じちゃったのよ。
間違いない!私がずーっと探し求めていたのは、この人だって。
それで私は同じテーブルの友人が止めるのも聞かず、つかつかと彼に歩み寄ったわけ。
「スズキヒロシさんですね?」
「・・・そうですが」
彼の名前を確かめたあと、私は腕時計を見て運命の時刻を読み上げたわ。
「指名手配中のスズキヒロシ!午後12時40分、十代から四十代、複数の女性に対する結婚詐欺容疑で逮捕する!」
そう・・・運命って、本当にあるのね。
でも、どうせなら、もっとロマンチックな運命がよかったんだけどね。
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