「遊戯王を模倣したカードゲームがない理由」という記事に対するお返事

この記事は「遊戯王を模倣したカードゲームがない理由」(https://anond.hatelabo.jp/20241109021307) という記事に対するリプライとなっています。単独でも読めますが、事前に返信先の記事を読んでおくとよいかもしれません。

・試合展開

遊戯王は、作中においてMtGを漫画で使いやすいように大雑把にした感じのもの(*1)を再度紙カードゲームに直すという、翻訳エンジンを複数回通すようなプロセスで作られた結果、カードを使うためのコストの概念がなく、ゲームレンジについて全く意識されてない原始遊戯王が生成されました。
KONAMIにしてもこれを継続して売る意思は多分なく、トレーティングカードに遊べる機能もつけたよ!って感じだったのでしょう。
もちろん作り手も手を抜くつもりはなかったと思いますが、TCGのノウハウのあるデザイナーもいない黎明期において「TCGとして面白いゲームを作る」こと自体が非常に難しく、KONAMIのデザイナーは非常に苦労されたと思います。
(事実、原始遊戯王のような「強いカードを出せば勝ち!」といったTCGは遊戯王以降の製品でもたびたび登場することになります。)
そうした違法建築じみた掘っ立て小屋のようなゲームが大人気になってしまったもので、2期以降、遊戯王はカードゲームとしてのルールや環境整備に着手することになります。

2期以降に行われたゲーム性向上のための様々なアプローチは当時のTCG制作ノウハウや遊戯王というコンテンツのありかたから考えると、素晴らしいレベルのものだったと思います。
先発だったポケモンカードがルールや環境整備に失敗(*2)し、裏面変更によるリブートを余儀なくされたことを考えれば十分すぎる結果です。
しかしコアとなっている元のゲームが違法建築じみた掘っ立て小屋であるため、それらをスケールするためにほかのゲームでは到底考えらない性能のカードを多数作ることになります。
結果、「1ターンに決まった量の手札と揮発性リソースが発生して、それを使って場札としての固定リソースを増やしていく」っていう所謂TCGライクのリソースマネジメントやゲームレンジの考え方とは離れていくことになり、強い個性を持つ九龍城のような歪だけど魅力のあるTCGとなりました。

ただ、これは現代、TCGの制作ノウハウが充実し、ユーザーの目が肥えた現代から見た評価であり、スタンダードなTCGライクなリソース/カードマネジメントとは遊戯王はかけ離れているよね?という視点でしかありません。
また、同時期ぐらいのTCGでも以下のように現代TCGライクなカードマネジメントを行わないゲームや現代的なリソースの考え方からは逸脱したゲームはいくつか挙げることができます。

  • ポケモンカード:リソース消費速度が速いので7ドローカードのような大量ドローカードが許容されるゲーム

  • ミラクルオブザゾーン:カード展開を交互に行い判定を繰り返す特殊なターン進行

  • 新世紀エヴァンゲリオンTCG:場のリソースの多くが共用であり、ボードゲームのようなリソースマネジメントを行うゲーム

売れてるTCGの中では遊戯王は特異だよねって話だと思うのでそこは同意するのですが、制作ノウハウのない黎明期に作られた個性的なゲームたちが商業的に成功しなかった歴史的な経緯があったこと、そのため、近年のTCGが独自要素は出しつつもTCG的なリソース/カードマネジメントをベースにしてしまう方向に行きやすいのは仕方ない、と思ってもらえると嬉しいです。
クリエイターの方も、許されるなら自分の大好きなギミックをふんだんに詰め込んだゲームを作りたいんじゃないかなって思いますよ。

■ 総合ルール

推測ではあるんですが、公開していないだけできちんと整備された総合ルールが存在するはずです。
なぜそのように断言できるかというと、マスターデュエルのようなDTCGを開発する際に統合ルールの整備が不可欠だからです。
紙のカードゲームをプログラムに落とし込む際の仕様書として必要不可欠なのが曖昧さを排除した厳密な統合ルールです。おそらくOCGとマスターデュエルでルールの整合性を図るための文書として内部的に統合ルールが作成されているはずです。OCG側ではカード開発を行う際にそのルールに沿ってカードテキストを作成し、ルール変更を行う際は統合ルールに手を入れ、マスターデュエル側は統合ルールをゲームエンジンとして、カードの処理をそのエンジン上で動くスクリプトとして開発を行なっているはずです。
そうしないとカード追加やルール変更毎にOCGチームとすり合わせを行った上でルールエンジンの処理を見直す必要ができ、とてもじゃないですがやってられません。
またKONAMIは家庭用ゲーム機で遊戯王のデジタル化を何度も行っており、さらにシリーズ化しています。かなりのコードの資産があるわけで、それが活用できるようにルールエンジンの整備とカードの処理のスクリプト化はほぼ間違いなく行っているとみていいと思います。
(どこで見たか失念したのですが、アナログゲームのルールをプログラムコードとして落とし込むことでルールの不備や不整合を見つける、というアナログゲームルールのデバッグ手法があったと思います。遊戯王もそのような手法でデジタル化で得たルール不備の情報を紙のほうにフィードバックしているかもしれません)

では、なぜそれを公開していないかというと、以下の二点が理由かなと思います。

  1. 内部ルールでもフォローできない部分を例外的に特殊処理にしてあるのを今から統合ルールに落とし込むのが大変

  2. 統合ルールを公開しても、現状では単にドキュメント整備の工数が増えるだけでKONAMI側にメリットがあんまりないから

そんなかんじです。

*1 MtGを参考にしたという点は記録から見ても分かります。例えばジャンプ紙上で「マジック アンド ウィザーズは実在した!」というようなキャッチでMtGを紹介し、プレゼントキャンペーンまで行っていました(週刊少年ジャンプ 1997年8号 P42 - 集英社)
*2 サイドのルールの不備を指摘した外部調整チームのスタッフがクリーチャーズの担当者に更迭されたという都市伝説(*3)があります。
*3 あくまで都市伝説です。間違いなく。絶対。