2024ハーフシーズンレビューと新エンブレムの運用について
昨年の2023シーズンは開幕11試合勝ちなしという厳しい船出となったが、1年後それ以上に厳しい状況に陥るとは1年前の自分には予想だにしなかった。
2024シーズンの半分が終わったこのタイミングで巻き起こった事件とそれに対する筆者の見解について記していきたい。
事態の顛末と見解
顛末
今期の監督解任劇はおそらくJリーグでも類を見ないほどの混乱を招いた。
そこで事の顛末を時系列に整理していきたい。
2024/2/25
開幕戦
甲府に敗戦
順位は最下位の20位
2024/3/2
第2節
鹿児島に敗戦
順位は19位
2024/3/9
第3節
秋田に敗戦
順位は最下位
この試合からメンバーに西谷の名前が消える
2024/3/14
西谷がInstagramのストーリーを投稿
2024/3/16
第4節
水戸に勝利
順位は18位
2024/3/20
第5節
山口に敗戦
この時点で1勝4敗
順位は19位
試合後サポーターと岸田社長、岡田強化本部長が話し合い
サポーターの監督解任要求に対し岸田社長があと2試合見て判断すると発言
2024/3/24
第6節
仙台と引き分け
順位は19位
2024/3/30
徳島新聞の朝刊、3月上旬に行われた練習で西谷和希が監督やコーチへの発言をきっかけにチーム練習から外れ、別メニューでトレーニングを行っていると報道
クラブは一体感を持って活動するのに支障があると判断、インスタグラムへの投稿も一因
言動の詳細については明らかにされず
第7節
群馬に敗北
順位は最下位の20位
山口戦後に見ると言った2試合が0勝1分1敗だったこと受け、試合後にサポーターに対し監督解任を明言
その後の報道では一部選手の反対により確定ではないとの情報
2024/3/31
吉田達磨監督の解任と岡田強化本部長の辞任を発表
2024/4/1
増田功作ヘッドコーチが暫定監督に就任
黒部光昭クラブアドバイザーが強化本部長に就任
島川俊郎が引退を発表
2024/4/2
島川俊郎が自身のYouTubeチャンネルに引退表明の動画を投稿
2024/4/3
増田暫定監督がアライバルインタビューで、本来は辞めるべきだと思うが吉田前監督に残ってくれと強く言われて残ることにしたと発言
2024/4/4
西谷和希の契約解除が発表
2024/4/6
柿谷がInstagramで発信
2024/4/13
第10節
長崎に敗北
スアレスが試合後インタビューで、最初の試合から進むべき道が分からなかったと発言。
2024/5/5
増田功作氏が正式に監督に就任するとリリース
監督就任リリースがあった後、同日に西谷がInstagramへ投稿
2024/5/9
西谷和希が栃木シティの練習に参加すると発表
2024/5/23
副キャプテンが変更
玄理吾→渡大生
2024/5/25
徳島新聞が副キャプテン交代理由を報道(朝5時:朝刊・有料記事)
ヴォルティススタジアムの試合前日インタビュー内で同内容を公開(18時:該当部分無料掲載)
2024/6/26
サポーターズカンファレンス開催(予定)
問題点
今回の解任劇がここまで大事になってしまったのは何故なのか。
問題点を検証していきたいと思う。
まず監督解任の判断。
サッカー界において7試合終わって最下位の監督が解任されることは珍しいことではない、むしろ解任されない方が不思議に思われる。
ポヤトスもパナシナイコスを開幕3連敗でクビになっているし、結果という点で判断が早すぎたということは全くない。
次に監督の去就について選手監督間で意見の相違。
争点となったのは結果ではなく内容。
西谷はSNSの投稿から結果が出ない理由を内容だと主張しており、解任反対派は柿谷の試合後コメントなどからこのサッカーを続ければ結果が出ると主張していることが分かる。
これまでの文脈から外れているかどうか以外の、内容の良し悪しは主観的な話になるのでここで議論すべき点ではない。
(サッカーライターの小澤一郎氏は動画などで内容について否定的な立場だったことは記しておきたい。)
選手が各々監督の戦術について疑問を持つこと自体は問題ではない。
問題なのは言動である。
まず西谷の言動内容が明らかにされていないため妥当性を判断するのは難しい。
チームのためを想っての行動の結果チームから外され契約解除となったが、今回のような最悪の事態を回避できなかったのかという観点で言えば、契約解除発表時のコメントを見る限り西谷自身によって最悪の事態(少なくとも辞める事態は)を避けられたのかもしれない。
しかし具体的な内容が何も分からないため、この点については何も書くことができない。
次に監督解任反対派について
解任に反対する意思を主張すること自体は悪いことではない。
しかしそれはクラブのためという前提がなくてはいけない。
選手を雇っているのはクラブだし、監督を雇っているのもクラブ。
監督のためという感情がクラブのためという感情を超えてしまってはプロとして正しいと言えないだろう。
吉田監督解任を受けて島川俊郎は引退を発表した。
市場が閉まった直後の引退はクラブにとって迷惑極まりないのではあるが、選手も人間なのでモチベーションを保てなくなったのなら仕方ないところではある。
むしろやる気がない選手に続けられるよりも人件費や枠の部分でメリットもあるため悪い選択ではないし、クラブを去るという決断は潔いとも言える。
筆者としては、退団した事自体に対する好感度はそれほど低くない。
しかし問題はその後である。
発表翌日に自身のYouTubeチャンネル内で引退についての動画を公開。
引退理由の一つに"どうしても許せないことがあった"と表明。
許せないことの内容は全く明らかにしないのに不満だけは匂わせて混乱を招く発言は極めて無責任であり、事態を不要に大きくする原因となった。
立つ鳥跡を濁さずという言葉があるが、その反対のように跡を濁し散らかして去って行った。これは最悪。
一見、西谷&サポーターと解任反対派で対立のようになってしまっているが、正確には直接選手同士が対立した訳ではないのは柿谷の投稿からも分かるため、間接的にフロントや監督を挟んで意見の相違から結果的にそういった構図に見えるだけだという点は留意しておきたい。
そしてそのような状態になった原因を単純な試合内容の良し悪しだけで語り切ることはできない。
西谷が「ヴォルティス本来のスタイルを取り戻す」と投稿していたことから分かるように、語っているのは文脈である。
多くのサポーターはリカルドやポヤトスの時代を知っているし、西谷もその時代から所属していた選手である。
そのため意見が一致するのも当然のこと。
サポーターや西谷は吉田達磨氏のサッカーがこれまでの文脈とは違うものだということが理解できるが、ここ1,2年で加入した選手はその文脈を把握できていないためこれまで徳島がやってきた基準で判断を下すことはできない。
西谷とサポーターは吉田達磨氏のサッカーでは強くならないという価値観だし、そうじゃない選手たちはその文脈を分かっていないのでこのサッカーを続けて結果を残すことができると信じる。
長く所属している選手と最近所属した選手で考え方が割れている時点で、強化の方向性がこれまでの文脈から外れていることは明らかである。
そのため今回の件はフロントの敗北である。
そして責任者である岡田氏は辞任したのでこれ以上監督や選手を責めることに何の意味も持たない。
筆者の主観的な内容ではあるが、文脈についてはこれらの記事を参考にしてほしい
選手やサポーター間の溝が本来妥当であるはずの解任を大事にしてしまったという部分はあるだろう。
しかし最も大きな問題はそこにない。
最も大きな問題はクラブフロントの対応であると考える。
今回の件、クラブがどういう絵を描いて解任に踏み切ったのか、決断を下したのかという意図が全く感じられない。
先ほど挙げた吉田監督のサッカー否定派と肯定派の希望はどちらも叶っていない。
否定派としては監督は解任されたものの後任には吉田氏が連れてきたヘッドコーチの増田氏が就任し、その他吉田氏が連れてきたスタッフもクラブに残ったため、方向性を変更するという意思は汲み取れず、西谷の復帰も叶わなかった。
直後の契約解除ではなく、別メニューにして話し合いをしていたという事はチームに戻す意思はあったという事だ。
話し合ったうえで契約解除になったという事は、フロントは西谷の主張を呑まなかったということだろう。
それは方向性を変える意思はないということに他ならない。
西谷が増田氏の監督就任リリース直後に退団メッセージをインスタで発信したのは、その時点で徳島復帰の可能性が完全になくなったことを意味すると受け取れる。
肯定派としては監督が解任されてしまっているし島川も去った。
吉田監督のサッカーを続けたかったのであれば解任する必要はなかったし、変えたいのならスタッフも同時に解任するべきだ。
しかしこの状態では成績が悪かった以外の理由が全く見えない。
上記したように今回問題の争点となっているのは結果ではなく「内容」である。
内容を変えるでも変えないでもなく中途半端な決断をし、結果としては西谷と島川、岡田氏などを失った。
様々な憶測を呼んでしまっているが、後任の準備が出来ていなかった事も相まって、これではサポーターに要求されたからパニック的に解任したと誤解や憶測を生んでも仕方がないくらい矛盾点と説明不足だけが露呈している。
監督の人事についてサポーターの意見を伺うのであれば顛末を説明すべきだし、説明しないのであればそもそも監督の去就についてサポーターの意志を仰ぐ必要がない。
全てが中途半端な対応で、不信感に拍車をかけたことを否めない。
今回の件、クラブから満足に足る説明は行われていない。
西谷の退団にしてもメディアが監督との対立を伝えたからサポーターは事象を把握できているのであって、クラブ公式が発信した情報だけを見ていては突然契約解除された以外の事は何も分からない。
島川の引退にしても本人が発信した動画がなければ何も理由がはっきりとしなかった。
柿谷がインスタで発信していなければ選手たちへの誹謗中傷は増大していただろう。
副キャプテン交代の件もクラブ公式からの説明はなく、最初はメディアが有料記事で出し、その後に公認サイトで監督の説明内容が該当部分無料で公開されていた。しかし試合前日インタビューの中で質問に答えた形であるため副キャプテン交代について伝えようという意図の記事ではなく、その内容を周知しようという意思は全くない。
近年は任天堂のニンテンドーダイレクトに代表されるように、間違った噂や憶測、本意ではない伝わり方を避ける策として、正確な情報を伝えるためにメディアを通さずメーカーが自ら番組を持つなどして直接情報を届ける手法が増えている。
SNSが一般化し、悪意のあるデマや間違った情報がすごい速さで拡散されていく時代に、同じく誰でも直接発信できるツールを活かしそれらに対抗していくことはエンタメを提供する側としてもはや避けては通れないと多くの企業が認識し対応している。
今回の徳島ヴォルティスの、自らは何も発信せずメディアからの断片的な情報で不必要に憶測デマ誹謗中傷を助長するという対応は完全に時代遅れであり、エンタメを提供する組織として自覚と認識が致命的に欠けていると言わざるを得ない。
今回の件はまるで政府が提出するほとんど黒塗りの資料と同じである。
同じようなことを近年政治スキャンダルで何度見てきただろう。
終わった事よりも未来をどう良くするべきかを考えるべきではないか?なんていう意識高い言説ほど権力者に都合のいい物はない。
説明責任を軽視しすぎである。
決めつけることは避けなけらばならないとしても、間接的な情報や知識歴史経験から疑問を持ち呈することを憶測と呼び、それを全否定することは権力者に従順な犬でしかない。
海外ではこういった状況になるとクラブハウスが襲撃されたりなどという事態に発生することもある。
日本ではそういったことは考えられないが、ネットに陰湿な投稿が増えたり、目障りな波風を鎮めるため追及する側を否定したりするのはいかにも日本らしいと言えるのではないだろうか。
当然誹謗中傷などは言った(書いた)人間が悪いのだが、そういった事が起こり得る状況になった時、クラブの対応ひとつでそれを助長したり抑制したり、その後の場の空気感をある程度コントロールすることは可能だ。
それは外から見たコンテンツの印象や、既にコンテンツの中にいる人を逃がさないことに繋がる。
エンターテインメントを提供する側として、今回の対応は間違いなく憶測や誹謗中傷をクラブ側が助長したし、それによりコンテンツの価値を下げた。
まとめ
徳島ヴォルティスは積み上げを大事にしてきたクラブだ。
しかし納得のいく説明もないまま、このまま積み上げがされていくというのはとてもじゃないが不信感を拭えない。
サポーターズカンファレンス(本記事を公開した約3週間後に開催予定)で説明があったとしても、結局はこっちが聞かなければ答えないという姿勢は同じ。
もしかしたらサポーターが批判を止めれば波風は収まるのかもしれない。
でもそんな何かの犠牲の上にある平和を正しいとは思わない。
降伏すれば戦争は終わるかもしれないが、それは命を懸けてまで戦う決意を馬鹿にしているだけだ。
この状況を招いた原因の大部分はフロントにある。
選手は悪くないし、悪くないから今後も選手は応援はするし試合も見るが、だからと言って納得した訳では断じてない。
必ずしも今回の件をクラブが説明する義務はないのかもしれないが、少なくとも筆者はこのまま説明がないのであれば納得する方法はリセットボタンを押す他ない。
具体的にはクラブの社長をはじめとした今回の件に関わった首脳陣、フロントの総辞職、クラブのために戦えない選手スタッフの総退団、それくらいやらないと西谷の契約解除について遺恨が消えることはない。
仮に監督が変わりチームの結果が上向いたとしても、誰かの犠牲の上にある勝利を今までと同じようには喜ぶことはできない。
少なくとも筆者は今シーズンの勝利に対して喜びの感情が沸いたことは一度もない。
このままではどれだけ勝とうが、タイトルを獲ろうが、最高の瞬間なんてものは来ない。
チームの成績や時間経過で有耶無耶にできると思っているかもしれないが筆者は騙されない。
P.S.
どうでもいいしどうにもできないので無視してればいいのだが、こういった問題が起こった時常にこういった意見を言う人が現れる。
「嫌ならサポーターを辞めればいい」
筆者はこういう事を言う人の気持ちが全く理解できないので憶測で話すが、辞めればいいと思えるということは、それくらい真剣ではないという事なのではないだろうか。
少なくとも自分が知る真剣に長年応援している人たちの中で、クラブに問題が起こった時簡単にサポーターを辞めると言う人は見たことがないし、3年連続最下位の時も、初のJ1に手も足も出なかった時も、色んなことが上手くいかなかった時も応援を辞めなかった人たちが残っている。
簡単に辞めればいいなんて口にする人たちには我々の真剣さを理解できないし、そもそもクラブを良くしようとすら思っていない可能性がある。
なぜならサポーターが減る=入場者が減ることはクラブにとって不利益だから。
なぜサポーターを辞めずに、試合を見に行くことを辞めないのか、その本質を理解できていれば辞めればいいなんていう言葉は出てこない。
その地域に不満があるのなら別の県に引っ越せばいい、それでも不満があるのなら別の国に引っ越せばいい、それでも不満があるなら…その次は別の星にでも引っ越すのかい?
別の場所には別の問題があるし、最初から完成した完璧な場所がどこかにあるなんて幻想だ。
サポーターの主張は歴史を基にした内容への批判、そこに生じる成績への批判、そして最も大切な選手がクラブを去ったことに対する説明の要求。
これらは不当だろうか?
この件に関わってくる野次馬たちは各々様々な思惑(ただの正義感、自分の視界で波風立っているのが目障り、クラブのアンチ、金儲けなど)があると思うが、多くのサポーターはあくまでもクラブを良くしたいという一心である。
良くしたいから声を上げるし、批判するし、疑問を呈するし、要求する。
ただし、SNSで誹謗中傷や捏造、差別をまき散らしている人々はほんとに黙っててほしい。
本題ではない反論で話題を逸らされていることに気付くべきだ。
今回もクラブ側は誹謗中傷という本題とは関係のないリリースを出したが、そういった本題から逸れた反論ができるというのは意見に隙があるということなんだよ、なぜなら反論自体は正しいから。
そういう隙をついて話題を変えて、追及する側が悪者のように見せられる時点で相手の土俵に引きずり込まれていることに気付け…!
仮にこっちが99正しくて1正しくない、相手が1正しくて99間違っていたとしても、こっちの悪い1と相手の正しい1だけを比べたらこっちが悪いように見えるの。
だからこういう問題の時は一つの隙も見せずに追及する必要があるのだけど、他人の集合体であるサポーターという団体で全員が足並み揃えて隙を見せず言動することは到底無理。
だからサッカーのサポーターというのは常に野蛮で柄が悪く見える。
こうやってなにかあった時サポーターというのは責任をなすりつけやすいし、なすりつけられがち、なんならサポーター間でなすりつけあって競技全体の印象を下げあっている。
だからマジで黙っててほしい。
という愚痴でした―。
―追記―
サポカンで何か本記事を加筆修正する必要がある内容が聞けるかと思ったが何もなかったので各自議事録読んでください。
吉田達磨体制
一応ここからはサッカー自体の話もしていこう
各試合についてはこちら
方針の齟齬
筆者は開幕前の段階で2024シーズンの展望記事を書いていたが、結果的には全く違うものが出てきた。
そもそも筆者は展望を書くにあたって強化部の意図とそれに最も近い昨シーズンの試合を参照することで、2024シーズンが上手くいくとすればこういう内容になるのではないかという予想をした。
しかしそれはこれから述べていく事態により全く見当違いのものとなってしまった。
根本的な部分がズレてしまったため頑張って書いた記事も調べたデータも2024シーズンを見るうえで全く役に立たないものになってしまったから残念である。
徳島ヴォルティスは2017年以降、欧州基準の戦術を時間がかかっても日本人に浸透させ日本で欧州基準のサッカーを体現することに挑戦してきた。
まず監督の思想があり、それを軸に人を集め育成する一貫性を重要視し、勝てない時期でもその部分にズレが生じることはなかった。
しかし2024年はその部分において、これまで一度も起きなかった齟齬が生まれた。
まず、2024シーズン始動前に行われた岡田強化本部長のインタビューを読んでみると、吉田監督続投の理由の中で2024年の方針についてこう語っている。
この話を聞く限り、昨年ラバイン体制で目指した縦に速く中央密集でカオスを作る応用スタイルから、リカルドやポヤトス体制で目指した立ち位置で優位性を作るポジショナルなスペインの伝統的なスタイルに戻したいという意図と読み取れる。
これが強化部の意図だとするなら、強化部と監督の方針に齟齬が生じていると感じたのがキャンプ中での監督の発言だ。
昨年上手くいかず強化部がやめようとしている縦に速いスタイルを、吉田監督は新しくやると言っている。
強化部が基礎基本であるビルドアップの部分を改めて取り組みたいと言っているのに、吉田監督は既に持っているから自分がやることではないと言っている。
吉田監督の言う「スピード」について、当初筆者はパススピードであったり、支配し押し込んだうえでのフィニッシュまでの速度なのかなと解釈していた。
しかし開幕戦、蓋を開けてみるとビルドアップの整備は皆無で、奪った後中盤を経由せず最前線まで速くボールを運ぶ様は昨年開幕戦のデジャヴを見せられているようだった。
形容するなら、ラバインの劣化版である。
これは明らかに強化部が目指していたものとは違うように感じた。
2017年以降、勝てなかったり目論見が外れることも何度もあったが、強化部の意図と現場で行われていることに齟齬が生じているという状態は初めてであると記憶している。
こうなってしまうと大枠での方向性や長中期的な評価というのもできないので、目の前の試合内容や勝ち負け以外に価値がなくなってしまう。
しかしこれはあくまでも筆者の解釈であり、観客の視点から見た印象に過ぎない。
実際には違う可能性がある。
岡田強化本部長は吉田監督の解任には消極的な印象で、吉田監督の解任と同時に辞任したため強化部としては強化部の狙いと監督の方針に齟齬はなかったのかもしれない。
岡田さんの言う基礎基本とは何を指していたのか、知り得る方法はない。
ライターの小澤さんも解任についての動画内でキャンプ中のトレーニングを高く評価している、選手からも解任に否定的な声が聞かれた。
明確なものがいまいち掴めないまま勝点だけは取りこぼし続けたという事実だけが残った。
認識の甘さと手腕
正直ここまで書いてきたことが全てであり、いくら吉田達磨監督の手腕を評価したところで徳島ヴォルティスの今後にとって役に立つものは何もない。
とはいえ記録として一応2024シーズンのサッカーについて記しておこうと思う。
システムは最初の4試合が昨年から引き続きの4231で、ほとんどの試合で試合途中に3421へと変更した。
最後の2試合は433だった。
守備面
昨年途中就任してからの11試合でも、ハイプレスで奪うシーンというのはほとんどなかったように記憶している。
しかし昨年は途中就任の降格争いという状況を踏まえリスクを避けるため撤退守備をベースにしたと捉えられたため、その点の評価は保留していた。
しかしシーズン頭からキャンプを経ても、プレッシングは全く向上しておらず、開幕戦の時点でハイプレスを仕込める監督ではないと察した。
奪いに行けないので自然と撤退守備となり、相手に押し込まれる時間は増えた。
ハイプレスにおいて相手の保持に対しどのように追い込んでどこで奪うのかという奪い所の設計が見て取れなかった。
次に攻撃面
ハイプレスで奪えないので低い位置から攻撃が始まる。
そこから相手ゴールまで前進するにはビルドアップの整備が不可欠だ。
先述したように吉田監督曰くビルドアップは既に持っているとのことだったが、蓋を開けてみれば全く整備されていなかった。
これで持っていると思ったのは、今思えばそれ以上教えられることは何もなかったという事だったのかもしれない。
GKを交えて相手のプレスをいなすといった場面はあまりなく、相手のプレスを受ければすぐ前線に蹴ってロストといったシーンが目立った。
味方同士で立ち位置の共有ができていないので、パスコースを探すのに手間取ったり、そもそもパスコースがないような場面が多い。
極めつけは秋田戦
徳島はこれまで風が強い試合であろうが秋田のような走るチームにボールを繋いで前進してきた。
それができなければ勝てないという覚悟のうえでそれをやってきた。
しかし吉田監督はそこから逃げた。
蹴って逃げれば何とかなるという安易な発想で空中戦をストロングとする秋田相手にビルドアップを止めた。
当然結果的にこの試合は逆転負けを喫した訳だが、どんな相手にも繋いで前進できるという自信を持てるくらいまでビルドアップが仕込めないからこういう発想に陥るのではないか。
奪ってから速く攻めようと縦に急ぐが、シュートまで完結できる場面は少なく、全体が押しあがらないためボールをロストした時の奪還も難しく厚みのある攻撃にはならなずひっくり返されるシーンが多い。
ボールを失った後の即時奪還が設計されていない攻撃。
433に変更した2試合は多少良くなったが、1試合目は相手も予想外だったこと、2試合目はその時点で最下位だった群馬が相手で群馬の内容も明らかに悪かったため真価を図るには足りなかった。
とはいえビルドアップは児玉のアドリブで何とかしていた部分が大きく、選手が逆サイドまで行ったり、サイドの選手2人ともが内側でプレーして大外に人がいなかったりと、ポジショニングもバラバラで細かく設計されているとは考えにくかった。
分析されればまた4231の時と大差なくなる可能性は高い。
守備はボール奪取位置が低く、攻撃はビルドアップで前進できない。
そのためひたすら相手に即時奪還され殴られ続け、ひっくり返せないという試合展開になる。
ルヴァンカップではJ3の長野に5失点大敗。
勝っていれば次はホームゲームだったので経営的にも大きな痛手となる敗戦もあった。
結果的に第7節翌日に解任
監督の手腕はデータにも表れており、
リーグ戦6試合中先制した試合は3試合、そのうち2試合は逆転負けで、残り1試合は勝ったものの一度は追いつかれている。
失点時間帯がこちら
全失点のうち後半の失点が84.6%となっており、逆転負けの多さと合わせても試合中の修正力が欠如していることが表れている。
いかに相手に攻め込まれたかを表すデータとして被シュート数を見てみよう
2017年以降のデータと比較しても、平均被シュート数12.9本は非常に多いことが分かる。
そうなれば当然失点数も増加し、平均失点は1.86と、J1だった2021シーズンよりも多い。
過去解任された監督との比較
過去の解任と比較しても、解任基準に妥当性はある。
過去の2人はともに30試合以上指揮しての解任なので過去最速の解任となった。
まとめ
総じて外から見れば監督解任の判断は妥当としか言えない。
西谷が反発してチーム活動から外されたことなど混乱と分裂を引き起こしてしまったが、もう少し早い決断ができていれば防げていたこともいろいろあったのかもしれない。
選手は、実際にプレーしているのは選手だから選手に責任があるというけど、それはそもそもの前提を見誤っている。
徳島がスペイン人監督を連れてきて、個ではなくグループで戦術的なことをやろうとしていたのは、個の能力で真っ向勝負になるとJ1の資金力あるクラブに徳島のクラブ規模では勝てない、J2の先を見据えてそこにどう立ち向かうかという中での戦略だった。
まずは戦術があって、その土台を突き詰めた上に個の能力がなければいけない。
だから土台の脆さを個の能力で埋めるやり方で勝つことは徳島ヴォルティスというクラブにとって何も意味をなさないのだ。
J3に落ちて環境も待遇も落ちても、なおこのクラブに残り共に上を目指してくれる選手はどれくらいいるだろうか?
落ちたから自分たちはクラブを去ります、となれば残されるのは我々サポーターのみである。
2021年にJ1から降格した時も主力はほとんどいなくなったし、次の年も昇格できなかったけど監督だけはJ1へ行った。
その流れに反して、徳島を強くするために唯一残ってくれたのが西谷和希なんだですよ。
詳しい事情は明らかにされていないが、サポーターが監督でも柿谷でもなく西谷を守るのはそういう歴史がある。
何をやっても許されるわけではないが、納得のいく説明がない以上西谷を守ろうとすることの何がおかしい?というのがサポーター心理としては自然だろう。
近年徳島ヴォルティスからは多くの選手がJ1へ個人昇格して行った。
しかし所属期間が短くても、多くの選手はその1年をクラブのためにプレーしてくれた。
だから移籍もその選手のためを想って送り出せた。
それが、クラブの成績が悪くても降格してもその監督のためにプレーすることが優先されるなんていう姿勢でサポーターに分かってくれなんて無理に決まっている。
西谷を失ったことは1人の選手を失ったこととは訳が違う。
西谷が反発したのはサッカーのスタイルへの疑問だったと推測される。
これまで徳島に加入した選手の中で、徳島のスタイルを理由に入団を決めた選手がどれだけいたことだろう。
ほとんど全てと言っても過言ではないほどだ。
西谷を失い、西谷が理想としたスタイルを失うということは、同じ動機を持つ他の選手も今後失うかもしれない、これから加入してくれるはずだった選手が来てくれなくなる可能性がある。
西谷を失ったという事はそういうことだ。
ピッチ上で一人だけプレス強度が違ったことを見ても明らかなように、西谷が基準であるべきだった。
徳島のスペイン路線を作り上げてきた岡田強化本部長も辞任し、これまでのモダン化の文脈はここで途絶えるかもしれない。
これからの徳島ヴォルティスどうなっていくのかはもう何も分からない。
今はただ推移を見守ることしかできない。
最も切に願うのは、アカデミーの選手が悲しむような事にはなってほしくない。
徳島は2017年以降トップからアカデミーまで一貫したスタイルを掲げ、アカデミー選手がトップチームで活躍しやすいよう施策を行ってきた。
トップが変わりアカデミーとスタイルにギャップが生じることは今後徳島で育った選手にとってネガティブな要素になり得るだろう。
増田功作体制
吉田達磨解任後はヘッドコーチの増田功作氏が暫定監督として6試合指揮を執った後、愛媛戦後に正式監督として就任した。
成績比較
監督交代前後での成績比較がこちら
試合数に5試合の差はあるがすべてのデータで好転していることが分かる。
平均勝点は約1ポイント上げているし、勝率は27.4%も上昇。
平均得点は0.14点上昇と微増ではあるものの平均失点は0.61点と大きく下げた。
試合内容
増田監督については、目の前の敵に対して分析し対策を準備し落とし込むという能力はかなり高い。
自分たちが何をしたいかよりも相手が何をされると嫌かという点に重点を置いている印象を受ける。
全体として吉田監督時から明らかにチームとしてボールを繋いで前進する意識が高くなったのと、前線から奪いに行くアグレッシブさも表れた。
最初の4試合は4231、山形戦後からは3421をベースのシステムとして採用。
とはいえシステムはあくまでベースであり、相手に合わせて可変で対応していた。
特徴的なのは、攻撃時は相手の前線と徳島の最終ラインの人数の枚数を合わせず、守備時は相手の横幅の人数と徳島の最終ラインの人数を合わせるという可変である。
攻撃時は相手が2トップなら最終ライン3枚で3421ないし3142の立ち位置、相手が3トップなら片方のSBが低い位置でビルドアップに参加し4231のような立ち位置となる。
守備時は相手の横幅が5枚なら541ないし432でセット、相手の横幅が4枚なら532をベースに片方のWBが高い位置までプレスに行き全体がスライドすることで実質442のような形で守る。
ここ数年の徳島は相手の前線と徳島の最終ラインの人数を合わせて、GKを含めてボールを回すことで数的優位を作るというやり方だった。
後方の人数を増やすという事はリスクが減るため、チームの状況が最悪の中で途中登板という状況を考えれば妥当な采配だと言える。
当然ビルドアップに人数を多くかけるため、前線に居る人数はどうしても減ってくる。
実際にFWが孤立するシーンやPA内に人が少ない場面も少なくはなかった。
そこを解決したのがインテリオールの質である。
特に出色なのが児玉駿斗。
攻撃時は最終ラインに落ちてボールを捌いたと思えば、三人目の動き出しで相手ライン裏に飛び出しラインブレイク。
守備でも帰陣スピードやサイドの局面サポートをサボらず行う。
ビルドアップではボールを受けて相手をいなし反転して運び前線に精度の高いミドルパスを供給。
それらをこなしたうえで90分間運動量が落ちない。
現状、出場するか否かでチームの成績に最も影響がある選手だと言える。
児玉のほかにも杉本や玄が強度や技術で相手に対し優位性を作る場面は多く、それにより永木が守備に専念でき負担が減ったのも良い効果をもたらした。
特別何か思想があるわけではなさそうだし組織ではなく個人を軸にバランスを取っていく感じなので、中長期的な視点で見ればクラブとして確固たるスタイルを構築していくためのサッカーがこれでいいのかと言われれば違うとは思うが、最悪なスタートを切った中で途中登板として十分に勝点を計算できるだけの采配は取れていると感じられる。
まとめ
増田監督就任後の成績や采配を見ても、監督交代が正解だったことは間違いない。
ただ前述したように、様々な事態を招いた吉田達磨体制のヘッドコーチを監督に昇格させ、吉田氏が連れてきたスタッフも全員残すという人事は不信感を拭えないし、西谷のことを考えれば到底納得できるものではない。
プロクラブの監督としてキャリアがあるわけでもない人の内部昇格で比較的上手くいったのはラッキーだったとしか言えないし、この件でフロントを評価することは全くできない。
ここからは別件
新エンブレム運用開始の雑感
新エンブレムが運用され始めてから数か月が経った。
様々な場所でエンブレムが使用されているが、その運用について違和感を抱くことが少なからず回数あったためここに書いておこうと思う。
違和感の正体について考えるため、エンブレムの役割を改めて整理した。
エンブレムとはその団体やブランドなどを誇示するためのものだ。
サッカーで言えば対戦相手や試合を観る様々な人に対して自チームを誇示し、クラブをイメージさせるために存在していると言える。
一方で近年はカジュアルなグッズが求められる傾向にあり、そこを重点に置いたブランディングがなされることは多い。
日常に溶け込むことが求められ、目立たないことが新たな価値として認識され始めた。
現代においてはエンブレム本来の役割に加え新たな役割も求められる。
その結果「主張する」ことと「主張しない」ことを同時に求めるという矛盾が発生することになった。
徳島ヴォルティスにおいては、旧エンブレムは主張という点が強く表れていたためにサポーターから主張しない価値を強く求められいた。
その点において新エンブレムは背景がなくシンボルが晒されており、主張しないことを十分に満たすデザインとなっている。
そして「主張」と「抑制」の使い分けをするため複数のパターンを用意したのではないかと考えられる。
しかし筆者は新エンブレムの運用を見ている中で「主張」というエンブレム本来の役割の部分が疎かになっているのではないかと感じた。
それが違和感の正体である。
現在の運用は「主張」と「抑制」のバランスが抑制に偏りすぎていると感じる。
どうすればバランスよりが取れるのかを実際の使用例を基に考えていきたい。
第一問:ユニフォーム
ユニフォームのエンブレムに必要なのは「主張」or「抑制」?
これはどちらにも利がある。
試合で使われるユニフォームには多くの人から認知されるという役割がある。
どんな人でもひと目でどのクラブか認知できるようユニフォームにはエンブレムがついている。
そして相手チームのエンブレムと並んだ時に見劣りするようではいけない。
一方、サッカーを観戦するとき以外で普段着として着用する場合は主張が控え目な方が良い。
ではこのユニフォームに付いているエンブレムはどちらを取っているのかというと、非常に中途半端である。
TOKUSHIMA VORTISの文字がないシンボルのみで白フチのバージョンを採用しているが、文字をなくしたのは抑制表現だが白フチの太さが悪目立ちしているので抑制になりきれていない。
個人的にユニフォームは「主張」でいいと思っている。
なぜならユニフォームにはスポンサーがたくさん付いているので、その中でエンブレムだけ「抑制」にしてもあまり意味がない。
クラブによってはスポンサーもカラーを統一しているところはあるが、抑制するということは広告効果が下がるという事であり、スポンサー料は変わらないのに宣伝効果が下がることを全てのスポンサーに足並み揃えて納得してもらうことは難易度が高い。
もしスポンサーも抑制に統一できるなら抑制にした方がいいと思うが、少なくとも現状ならエンブレムは「主張」でいい。
ではそういった方向性ならどうするのがベストだろうか。
このユニフォームについたエンブレムに主張が不足していると感じるのは
TOKUSHIMA VORTISの文字がないバージョンを採用してしまったことが大きい。
エンブレムの文字ありと文字なしでは主張度が大きく異なる。
そのため主張か抑制かの役割分担において文字の有無は基準として分かりやすい。
あと、文字がないと不安定な印象で、グッズ利用ならいいがエンブレムとして使うのはやはり微妙。
練習着は文字ありのエンブレムが採用されているものがあるが、やはりそちらの方が良い印象を受けた。
"青緑の白フチ"か"白緑のフチなし"かという選択もできるが、個人的にはエンブレムは青と緑の2色であって欲しいので白フチでよかったと思っている。
背景色をエンブレムカラーのひとつとして捉えるのはなかなか難しさを感じる。
グッズのTシャツとユニフォームのエンブレムを同一視しないことは考慮すべき点だ。
というか青背景に白緑のシンボルのパターンはカジュアルなグッズなど明らかに抑制が必要な場面以外で使うべきではないと思っている。
なぜなら、どうしても青より白の印象が強くなるから。
とはいえ、現行の白フチは白の部分が太いのでユニフォームに付いたエンブレムを中継映像などで見たらほぼ白にしか見えないことも多い。
なので白の太さをこれくらい細くした方が良いのではないだろうか。
12本のラインで選手とサポーターを表しているというコンセプトからは外れるかもしれないが、自分としてはコンセプトとかはぶっちゃけどうでもいいので機能面とビジュアル面を優先して欲しいと思う。
フラッグとかもこれでいい。
第二問:グッズ
グッズは様々なものがあるため一概には言えないが、普段使いのカジュアルなものとエンブレムのデザイン自体を売るものでは役割が変わってくる。
では普段使いのカジュアルなグッズはどちらが必要だろうか。
アパレルのような普段使いするアイテムは「抑制」が正解だと言える。
文字のないエンブレムを採用することで主張を抑え溶け込んだデザインとなっている。
次に、エンブレムのデザイン自体を売りたい場合はどちらだろうか。
エンブレムのデザイン自体を売りたいアイテムでは「主張」が正解だろう。
文字あり青緑カラーのベーシックなデザインを採用することで、街中でカバンなどにつけている人がいればひと目でサポーターだと認識できるし、クラブを知らない人にもクラブカラーなどが正確に伝わる。
これらのパーカーやキーホルダーは求められる役割とデザインが一致しているからいいグッズだと言える。
しかしそれが一致していない例もある。
Tシャツというカジュアルなアイテムは「抑制」が求められるが、これは激しく主張してしまっている。
もしかしたら普段着ることを想定していないエンブレムのデザインを売るためのグッズとして作られた可能性もありそれなら「主張」が正解ではあるのだが、エンブレムのデザインを売るためのグッズがTシャツである必要はないし、キーホルダーやペナントなどそれに適したグッズも他にある中でこのデザインのTシャツが必要だったとは思えない。
第三問:告知画像
まずはこちらの画像をご覧いただこう。
ぱっと見の印象で徳島のエンブレムと群馬のエンブレム、どちらがエンブレムとして目についただろうか。
ほとんどの人が群馬だと答えるのではないだろうか?
徳島の白と緑のエンブレムは文字と同じ色なので文章と一体化してエンブレムとして視認しづらい。
他のエンブレムと並んで目立たないというのはエンブレム本来の役割である「主張」という点で物足りない。
こういった告知画像においては試合をするクラブが認知される必要があるため必要なのは「主張」である。
そのうえ黒背景の上に白緑のエンブレムが載っているためクラブカラーである青色もエンブレムでは全く伝わらない。
無料招待告知という普段サッカーを観に来ない人たちに向けた広告においてエンブレムが目立たないクラブカラーが分からないというのは必要な「主張」が全くされていないと言える。
こちらはJリーグ公式ハイライト動画のサムネイル画像
本来白緑のエンブレムというのは、背景を青にしたらエンブレムの青が潰れることを考慮して用意されたパターンだと思う。
しかし青以外の背景で白緑のエンブレムが使われることが多々あり、特にこのサムネイルではJ2のリーグカラーである緑の背景の上に白緑のエンブレムを乗せたことによって色潰れ対策のために用意したエンブレムの色が潰れているという本末転倒な状態になっている。
そもそも濃色背景には白緑のエンブレムを使えば視認性は問題ないという認識なのかもしれないが、背景が緑やそれに近い色の場合はどちらのパターンを使っても色が潰れるため実際は何も解決していない。
対応できない状況が存在するというのはシステム的に致命的な欠陥である。
さらに問題だと言えるのが、このエンブレムではクラブカラーが正確に伝わらないことだ。
徳島ヴォルティスのことを知らない人がこのサムネイルを見たとき、おそらく徳島は白緑がクラブカラーのチームであると認識されてしまう。
それはクラブが行うべき「主張」ができていないことである。
エンブレムでクラブカラーが正しく伝わらない、見る人が受ける印象に統一感を持たせられていない、これはブランディングに失敗していると言わざるを得ない。
エンブレムというのは自分たち以外(リーグや他クラブ、メディアなど)が使用することも多いため、使い方を必ずしも自分たちでコントロールできるわけではない。
そのため誰が使っても正しく伝わるものを提供しなくてはいけない。
しかし現状は、おそらく複数パターンのエンブレムを提供してしまっているために利用者によって様々な使われ方をし、エンブレムの伝わり方が変わってしまっている。
他の例がこちら
先述したようにこの使われ方も主張力は低くクラブカラーも伝わらない。
百歩譲ってそれはいいとしても、この白緑エンブレムは背景の青色込みのカラーリングとして作られているはずだ。
であるなら背景色がファーストカラーという認識になる。
ということはこの画像ではオレンジ白緑の3色と捉えることになる。
完全に愛媛FCのカラーリングですよ。
クラブはこの使われ方でいいと思っているのだろうか?
早急に背景に影響を受けるエンブレムのパターンはクラブ以外が使えないように是正すべきである。
そして一般的に利用されるものは白フチにすべきだ(白の面積がもっと少ないほうが望ましい)。
ちなみに自分で作成した白フチあり青緑エンブレムを画像に合成するとこうなる。
2つの画像を見比べて皆さんはどっちがいいと思うだろうか?
第四問:のぼり
応援ショップなどに配られているのぼり。
定期的に作り替えられているが、当然エンブレム変更に際しても一新された。
それがこちら
のぼりというのはじっくり見られるものではなく、街中で一瞬目に入るくらいのものだ。
では、パッと見の印象でこのサッカークラブのチームカラーは何色だと思うだろうか?
自分なら青と白のクラブだと感じる。
こういった印象になるのは緑色の面積が少ない以外にも理由がある。
それが視線誘導である。
視線誘導とは、広告やイラストなどを見る人の視線の流れをコントロールするようにデザインする手法だ。
のぼりは縦長の形に文字が縦書きされている。
見る側の視点は上から下に向かって流れていく。
そのためこののぼりは最初に白色が目に入ってくるため白の印象が強くなってしまう。
一方こちらののぼりを見てみよう。
これはホームタウン用ののぼりだが、さきほどののぼりとはデザインが異なる。
違う点は主に2つあり、緑の面積の多さとエンブレムの位置である。
こちらも視線誘導で考えてみると、最初に目に入ってくる上部には青と緑の差し色、次に緑のラインがあって最後にエンブレムと白背景が目に入る。
そのためこちらののぼりは白よりも青と緑の印象が強い。
こういった環境下における新エンブレムの特徴にも言及したい。
新エンブレムはスマホの画面で大きく見ると気にならないが、四角形にはめると色のある面積はかなり小さい。
そのため街中などで小さいものを見るとエンブレムだけでは色は非常に分かりにくい。
仮に分かりやすく背景をピンクにして青と緑とピンクの面積比を割り出してみるとこうなった
画像を見ればわかる通り、ピンク(本来は白)の面積が6割ほどを占めていることが分かる。
よって街中ののぼりに描かれているような小さいエンブレムでは色を識別しづらいうえ、青と緑より背景の白の方が印象が強くなってしまう。
街中に建てられるのぼりというのは天気や周囲の環境色によって見え方が変わるため、上応援ショップ用のぼりの画像のように影がかかると余計に見えづらいし認知しづらい。
この青緑エンブレムの問題点は、エンブレムを表示するには背景は白でなければいけないという点である。
そのためのぼりのようなものに使おうとすれば白の主張が強くなりすぎる。
本来エンブレムでしたい主張はクラブカラーである青と緑のはずだ。
応援ショップ用ののぼりは主張したいものをきちんと主張できているとは言えないだろう。
結局エンブレムとクラブカラーを最も正しく周知しようとすれば、青背景に青緑エンブレムを使用するしかないのではないだろうかと思う。
のぼり以外の例も挙げておくと、スタジアムに掲げられているフラッグ。
これも完全に青と白という印象である。
じっと見なければエンブレムの小さい緑色はこの距離から認識することは難しい。
スタジアムを青と緑で染めるのならば、白いフラッグの代わりにこういったパターンを使うという手もある。
が、やはり基本的には青背景に青緑エンブレムを使用するのが望ましいのではないかと思う。
第五問:メディア
当然メディアもエンブレムを使用する。
徳島のサポーター以外が多くエンブレムを目にする場において、エンブレムはそのクラブをイメージさせる役割を担う。
そうであれば、エンブレムに求められるのは「主張」だろう。
中継映像で表示されているエンブレムも緑白バージョンが使われていることが多い。
これはDAZNのスタメン紹介だが、黒背景に白緑バージョンのエンブレムが使用されていることでクラブカラーが全く伝わらない。
こういった場面でも必要な表現は「主張」であるべきだ。
そして決定的な欠陥を露呈しているのがこちら
本来の背景は黒なので白緑エンブレムを使うという意図は分かる。
しかしこのように、背景色変化による強調表現が行われると色が完全に潰れてしまう。
静止画と違い、動画では背景の色を変化させるという表現がしばしば行われるため、背景の色に影響を受けるエンブレムというのはその役割を成立させることが極めて困難だ。
次にこちら
これはKICK OFF TOKUSHIMAのエンドロールで表示されるエンブレムである。
青緑のエンブレムだけだと背景に影響を受けるため使えず、白背景を四角にトリミングして使用している。
せっかくエンブレムのデザインを背景のないものにしたのに、こういう使い方をされると非常に不細工。
このように使い手によって見え方が変わってしまうというのはブランディング上問題となる。
これは使う側が悪いのではなく、自分たちの手を離れた時のことを想定できていないクラブ側の問題である。
次にスポーツナビアプリの試合画面
上記のことを考えると、白フチのある青緑エンブレムを使用している。
これは良い例である。
良い例なのだが、問題点がある。
おわかりいただけただろうか…?
クラブ公式が出していた画像はこちらである。
そう、スポーツナビが使用しているものはクラブ側が出しているものとは違う。
これはどういうことかというと、おそらくスポーツナビ側が自力で作ったのだろう。
要はクラブ側がコントロールして良い表示がされているのではなく、スポナビ側の気遣いが素晴らしかっただけ。
スポナビ側からすれば余分な仕事が増えている。
ちなみに、新シーズンの日程発表で各クラブ日程をまとめた画像を出していたがほとんどのクラブは白緑のエンブレムを使用していた。
しかしそのなかで唯一長崎だけはその余分な仕事をしてくれていた。
スポナビと違い白フチではなくエンブレムの形に切り取ったような感じだ。
長崎にはひたすら申し訳なさと有難さしかないのだが、果たして徳島側としてこれで良いのか?
こういうトリミングがされるとエンブレムの印象はかなり変わる。
何よりも長崎側に余計な仕事を増やしたのは問題視すべきだ。
このように、四国放送、スポナビ、長崎の三者だけでもこれだけ自力のトリミングがされてるし、そのトリミング方法をバラバラである。
使い手によって形が変わり、見る側の印象が変わる。
これは先述したクラブカラーに続きエンブレムの形状面でもブランディングに失敗していると言わざるを得ない。
まとめ
ここまで読んでくれた人にはお分かりだろうと思うが、エンブレムが担う役割において、主張と抑制では「主張」を求められる機会の方が圧倒的に多い。
むしろカジュアルなグッズ以外に「抑制」が必要な場面はほとんどないのではないだろうか。
繰り返しになるが筆者は普段使い用のカジュアルなグッズ以外は全て下画像のパターンを使用すべきであると思っている。
徳島ヴォルティスにおいては、旧エンブレムが極端に「主張」に寄っていたこともあり新エンブレム作成にあたり「抑制」がかなり意識されて作られたのではないかと想像できる。
サポーターに行った事前アンケートでもそのような意見は多かっただろう。
しかしここまで例を挙げてきた通り、新エンブレムの運用はあまりにも「主張」が疎かになっており目に余った。
シーズン途中で変更するのが難しいものもあると思うので、来シーズン以降今期の反省を生かしどう変わっていくのか見守りたいと思う。
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