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杉田水脈がはじめて”代弁者”という言葉を口にした

 「私を支援してくださっている方々がいっぱいおりますので、その方々の代弁者として、しっかり頑張ってまいりたい」

 これは昨年末の12月27日に辞任した杉田水脈総務官(当時)が、食い下がる新聞記者に向けて発した言葉である。
 「LGBTに生産性はない」を始めとする数々の差別発言自体に関しては、今や誰もが「今に始まった事ではない」という前置きなしには語れないほど膨大で、全てを列挙してもキリがないので、本稿は”代弁者”というテーマに絞りたいと思う。
 杉田氏が、やっと”代弁者”という言葉を口にしたことには、きっと意味があるからだ。

 これまでも発言に非難が出るたびに、「間違ったことは言ってないんだから、胸張ってればいいよ」と「大臣クラスの方を始め、先輩方が声をかけてくださる」と似たような趣旨を展開していたが、筆者が知る限りでは”代弁者”という言葉までは使っていなかったように思う。

 杉田氏の論調の元ネタは、一昔前なら日本会議の思想に例えられたが、現在は、統一教会の教義に塗り替えられているようだ。「大臣クラスが声をかけてくださる」という発言自体がその証左であるように、「名誉男性」の”称号”は既に受けているし、一部の男性の弾除けにもなっている。彼らの権利、利権を必死に守ることが杉田氏の責務になっているのだろう。悪く言えば、典型的な「鉄砲玉」といってもいい。
 例にしやすいのは杉田氏の一丁目一番地といってもいい選択的夫婦別姓への否定が一番わかりやすい。選択姓を反対する大物男性議員は、版を押したように「伝統的家族観が壊れるから」と言うが、それ以上のことは面と向かっては言えないので、杉田氏が彼らの代弁をしているのである。本当は、選択姓が導入されてしまうと妻に別姓を求められることを恐れている、つまり自分の既得権益を失いたくないからである。
 2020年1月22日の衆議院代表質問で、選択制の導入を求める国民民主党の玉木雄一郎代表に「それなら結婚しなくていい!」と言い放った(と思われる)杉田氏のヤジは選択制に反対する男性議員の本音である。

 逆に既婚女性が選択的夫婦別姓に反対する場合もあるだろう。選択制が導入されれば、事実婚だった夫婦は晴れて法律婚での別姓夫婦となるが、既に同性夫婦となっている妻側が、夫に別姓を求める発言権が自分にないと感じていれば、導入に対して諸手を挙げて喜べないと考えるのではないか?杉田氏自身どちらかというとその兆候があるのではないかと邪推してしまう。
 杉田氏の論調があまりにも破綻しているのは、彼女が非論理的というより、あくまで他人の代弁であって、想像力だけで組み立てているわけだから限界はある。想像力のみでそこまで他人を代弁出来ることはある意味尊敬に値する。
 「私は、女性差別というのは存在していないと思うんです」(2014年10月15日内閣委員会)と「男女平等は絶対に実現し得ない反道徳の妄想です」(10月31日本会議)が両立し得ないように、明らかに論理が破綻しているが、本人からすれば決して矛盾しているわけではない。翻訳すると、不平等は差別ではない。男女不平等は区別なのだと言いたいのだろう。

 そしてそれが杉田氏の生存戦略であり、そこまでしないと比例中国ブロック名簿での上位登載はないと悟っているのである。選択的夫婦別姓だけではない。ジェンダーフリー、LGBT支援、保育園児童保育の普及、女性差別の存在といったものの全てを否定することによって生き残りを賭ける杉田氏を非難してなんの意味があろう。

 自分を守るために名誉男性を弾除けにする男性と、生き残るために飛んでくる矢の的になる名誉男性、それは自分事ではないと言い切れる人は決して少なくないはずだ。属性だけで評価が変わるのでは匿名もやむを得ないことと大差はない。

 何も昔から一方的な思想の持ち主だったわけではない。
 杉田氏自身もかつては「維新の先輩たちから言われて、予算委員会で右寄りの質問をしなければならない」(『週刊文春』2018年8月9日号)と悩んでいた時期もあったのだ。彼女も人権を奪われた立場なのである。モグラ叩きのように責めたところで、他の「名誉男性議員」が生まれるだけなのだ。
 だからそうならないように、杉田氏が初めて”代弁者”という言葉を直接的に使ったことを契機として、彼女がなぜどのようにして地盤のない公務員であった一女性候補者が「名誉男性議員」に仕立て上げられたのか?その経緯を知る必要がある。

 但し手心を加えるべきだとは思わない。総務官を辞任した以上、彼女の主戦場である『月刊Hanada』や『月刊WiII』に戻ってくるだろうし、閉じていた口が開けば今度は大いに追及すればいいのである。『新調45』事件も、(事実上)廃刊での幕引きなどさせずに、杉田氏から本心を引き出せればよかったのだ。

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