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あたらしいテレビ

 10日放送のNHKの「あたらしいテレビ」が面白かったので、気になった点をメモ。新型コロナウイルスを受けてのテレビ・映像メディアの変革がテーマだった。

 リモートで出演したパネリストはこの6人。

・佐久間宣行(テレビ東京 プロデューサー)
・土屋敏男(日本テレビ シニアクリエーター)
・野木亜紀子(脚本家)
・疋田万理(メディアプロデューサー)
・ヒャダイン(音楽クリエーター)
・フワちゃん(YouTuber芸人)

 ※出演者のコメントはメモ書きで、正確ではないです。

▶発言力の弱い人にも光

 疋田さん「ZOOMで数人で話すとき、みんな空気を読んで待ち構えてる。発言力が弱くても話しやすい」

 オンラインでは同時に話すと聞き取りにくい。発言者に集中して話を聞くことになるので、一人一人にスポットがあたる。前にオンライン飲み会が苦手って書いたけど、これは大きなメリットだ。話していない人が可視化されるから、同じ人ばかりが発言の機会を独占すると白けるもんね。

 佐久間さんによると、リモートのバラエティでは、クロストークより絶対的MCがいる番組の方がうまくいっているらしい。話を振る人の力量が問われるんだな。民放のバラエティで苦手なのが、話を遮るところ。大御所が、ゲストのエピソードトークを遮ってツッコみ、自分の「オモシロ」に回収する場面が好きではない。アップデートされていない価値観で若者やマイノリティーをいじるのもしんどい。オンラインツールが発言力弱者を拾い上げるなら、バラエティにも変化をもたらすだろうか。

 少し違うけど、オンラインの学校の授業も、先生というMCがうまく回せるなら発言力の弱い生徒が話しやすいだろう。教室というリアル空間って独特の空気があってしんどいけど、オンライン教室になるとそれが薄れる気がする。リモートで「不登校」の概念も変わりそう。教室には行きたくないけど、授業は受けたいって人はいるはずだから。

 バラエティについては、野木さんのこの指摘も頷いた。

 野木さん「そもそも100人ひな壇にいるのが面白かったのか。惰性でやってきたことを考え直すのはいい。こういうことでもなければ変わらない。番組作りも結局は個人。プロデューサーら個人が大切に思っていることを守りながら、変えるところを変える」

 

▶ドラマが映す価値観の変化

 野木さん「『野ブタ。をプロデュース』の再放送はよかった。(再放送ドラマについて)当時の価値観といまの価値観が変わっている中、いま引っかかりなく見られるのか」
 佐久間さん「(野ブタ出演の)戸田恵梨香はちょうど朝ドラのスカーレット終わりで、考え抜かれた再放送だなと。再放送するにもチョイスが大事。いまと繋がっている何かがあるから響く」
 疋田さん「昔よくあった女の子が御曹司に助けられる作品は、いまエンパワメントしない」
 野木さん「いま、みんなで見るとしたら、『王様のレストラン』や『HR』など楽しい作品がいい。深刻にならない、いい塩梅。王様のレストランは、あの素敵なレストランもいまなら大変なんだろうなと。中小の飲食店への思いも乗せて見られる」

 春クールのドラマの撮影中断で、プライム帯に過去のドラマが再放送されている。再放送といっても「恋つづ」とか「ノーサイドゲーム」とかかなり最近の作品。そんな中で野ブタはなかなか見る機会のない2005年のヒット作品だから、特に盛り上がっている。私は放送当時中1くらいだったので、超懐かしい。「きみは一人じゃないよ」と温かな眼差しを向ける木皿泉さんの脚本を、当時の尖った山Pや亀梨くんが演じているのがたまらない。いじめの描写は、いまと比べるとかなり露骨でえげつない。

 話は逸れるが、07年の「ライフ」といういじめが題材のドラマは、主人公がトイレで水を浴びせられたり、ごみ箱に弁当を捨てられたりと壮絶だった。この時期は携帯小説の流行が象徴的なように、ドラマや漫画でも、10代の「いじめ」「薬物」「妊娠」といったテーマが、かなりセンセーショナルに描かれたと思う。いまも扱われるけど、よりショッキングな形で作るのがウケていた。90年代以降のギャル文化が、まだメインストリームにあったのも感じる。

 野ブタは時代を感じさせるところはあるものの、ドラマに普遍的な感動があるから全然色褪せない。いまの10代が見ても新鮮だろうし、ビッグになった出演者の姿と重ね合わせる楽しさがあるから、再放送の価値が高い。

 一方、野木さんの指摘は確かで、ジェンダーやハラスメントの価値観が変わる中、放送当時の価値観がもろに表れるドラマを放送するのは是非がある。単に当時の視聴率が高い作品を再放送するというやり方は向いていない。当時は何も思わなかったシーンも、時代が変われば受け取る側も変わる。旧来型の価値観を批評性を持って見られるならいいが、そのまま受け止める人もいる。見たい人が選んで見るオンデマンド配信と違って、テレビは作品選びを慎重にしないといけないから難しい。いま野ブタを選んだ日テレはセンスがある!

 今後のドラマ制作について聞かれた野木さんの話もよかった。

 野木さん「いまはできるだけ変わらない体(てい)でやっていきたい。でも、コロナに全く触れないと、いつの時代のドラマ?パラレルワールド?と思わせる。キスシーンは、『うわ、感染する』って思わせて雑念が入っちゃう。3.11のときも直後はやりづらく、徐々に取り入れていった。3.11はまだ終わっていない。いまだに引きずっている、苦しんでいる人を忘れないようにやっていく。(コロナの)いまの思いも、いずれ表現として何かしら残していきたい」

 フィクションでのコロナの扱い方は悩ましいところ。そもそもいまは撮影自体ができないというのは置いといて…。NHKのテレワークドラマは、いま見る意味があった。森下佳子さん脚本の「転・コウ・生」は、自分が自分ではなくなるという変化を受け入れる結末なのだが、それが諦めや開き直りでもないのが面白かった。

 野木さんの「3.11は終わっていない」の話。同じくアフターコロナでも、日常が元に戻るわけではない。なくなった仕事、閉店したお店、キャンセルした旅行。あるはずだった未来は変わり、いろんな人の人生が大きく狂ってしまった。誰しもが経験した苦しみだから、今後どうなっても、報道や表現活動において、永遠に無視できないと思う。自然災害と比べ、コロナ禍では、世界の人が等しく苦しんでいると言われる。でも、その苦しみにも、経済状況や雇用形態によって格差がある。自分が大丈夫だからといって、それを忘れてはいけない。明るい希望が持てる作品も必要だが、目を反らさず時代を映した作品もこれからどんどん生まれたらいいな。

 


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