切符を用意しなくちゃ
前回は…
早く食べ終わったお爺ちゃんに、お茶か牛乳どちらがのみたい?と尋ねると珈琲!と選択肢にない答えが返ってきて、食堂は笑いに包まれたのであった。
「あの、切符を用意してちょうだいね。早く帰りたいから」
フロア内では割と元気な方で、食事介助の必要もなく言葉をハキハキ話すおばあちゃんが話しかけてきた。
「切符ですか?」と尋ねると、「そうなの、東京駅からここまで遠かったわ〜」と遠くを見つめながら独り言のように言う。
「乗り継ぎが大変だから、時間に余裕を持ちたいの。荷物はどうすればいいかしら?」と聞かれてもワタシはさっぱりわからない。
どうしたらいいのかと考えてると、再び「切符を用意してちょうだいね。乗り継ぎが大変だから」という。
ワタシは床掃除を一旦やめて お婆ちゃんの側に座った。
「乗り継ぎは結構大変ですよね。」と話す。
「そうなのよー。暑いし、疲れるし。でも、あなた今日はいい天気よね。花が綺麗に咲いてる。私寒いのよ。ほら窓際だから。毛布を巻いても寒いの。」と独り言のように早口で言うので、必死に耳を傾ける。
窓から外を見てみると、アイビーや生垣の緑ばかりで花はどこにもない。あっ。折り紙で作った花が窓に沢山貼られてた。
「お花綺麗ですね〜!今まで気がつかなかった。窓にこんなに咲いてたんですねー。」というとにっこり笑ってくれた。けどまたすぐに「切符を用意しなくちゃ。心配なのよ。」と話す。
「わかりました。切符ですね。」と答えるとほーっとため息ついて「お願いしますね」と頭を下げてきた。
手を握りながら明日の朝、また来ますねと話しかけると「ありがとう…待ってるわ。」と力強く握り返してきた。
お婆ちゃんが待ってる。
明日も頑張ろう。
つづく。