字が書けない詩人
本を読むのが好きだったから
自分も何書きたいと
ノートにいろいろ書いていた
ひらがなばかり
大きな文字
それしかできなくて
とても大変だった
書字障害ということは
あとから知った
辞書を丸写しして
多少は書けるが
少しの文章を書くのに
長い時間がかかった
それでも何かを書くのは
楽しかった
毎日毎日何かを書いていた
学校の授業中でも
先生の目を盗んでは
ひたすら書いていた
国語辞書がないと
漢字が書けないから
数学のときにも
辞書を開いて
不審に思われていた
ワープロを手に入れたとき
魔法の道具のように思えた
それまでうまく書けなかった
頭の中にあるものを
ものすごいスピードで書ける
文字を自由にあつかえることに
感動した
それから詩を書くようになった
散文も書いていたが
思ったことを形にするには
詩が一番向いていると思った
想いを文字にすること
それが純粋にうれしくて
いまでも詩を書いている
上手い下手は気にしない
ただ書けることが
それだけで楽しい
字が書けないのに
詩を書こうと思った
そのときの情熱は
いまでも熱く燃えている
字が書けない詩人
立派な万年筆も
高い原稿用紙も
使えない
安いノートパソコンで
詩を書いている
それを公開することができるのは
テクノロジーのおかげだ
だから手書きのぬくもりとか
自然の素晴らしさとか
強く訴えられると
鼻白む
何かを書くことに
貴賤はないだろう
技術革新は素晴らしい
技術は人間を豊かにする
字が書けない詩人は
科学の力を信じている
言葉の力を信じている
年を取って
頭の回転が鈍り
若いころのように
猛スピードでは書けなくなった
それでもあふれる想いを
言葉にして
書き続けている
字が書けない詩人は
字が書けることの喜びを
誰かに伝えたくて
詩を書き続けている