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宮城県柴田郡川崎町

日本に帰ってきて
川崎町に居着いてから
何年経っただろう

日本を離れていた
年月と
川崎町に来てからの
日々は
連続していない
しかしどちらも
現実感がない

東日本大震災が起きてから
ほとんど一瞬にして
時は過ぎた
記憶はおぼろげで
老いた体のあちこちが
痛むのが
年月を思わせる

震災以降
何をして生きていたのか
ほとんど憶えていない
ただ時が流れるまま
散漫に日常を歩いていた

ASEANに島流しになり
日本に帰れず
日本のことを忘れ
このまま朽ちるのだと
思っていた

ラオスで浴びるほど酒を飲み
死に向かう心を
他人事のように眺めていた

震災で粉々になった日常から
東南アジアでボロボロになって
廃人のように暮らすこと
何一つ自分では選んでいない

地震で死ぬことを
選ぶ人はいなかったろう
ASEANで死ぬことを
選んだわけではない

どうしようもない
大きな流れの中で
わたしたちは
生きている

大河は巨大なうねりで
世界を動かす

川崎町で暮らす毎日は
何も変化がなく
トタン屋根が
太陽を照り返す
灼熱の夏と
蔵王おろしが
吹きつける
雪が舞う
凍える冬を
繰り返す

何もない毎日
何もないわたし

このまま消えていくこと
それだけがハッキリしていて
さびれた川崎町で
時の流れに
身を任せている

気がかりなのは
きみのことだけで
毎日楽しくやっているのか
心配している

たぶんわたしがいなくても
きみは幸せにやっていける
何も心配することはない

喜びは少なく
苦しみも些細で
単調な暮らしは
心をゆさぶらない

貧しい川崎町の景色は
わたしの心を映しているのだろう
川崎町に暮らす
豊かな人は
たくさんいるだろう

灰色の街は
灰色のわたしの
似姿

誰に知られることなく
散逸するわたしの
記憶の欠片

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