詩は世界をつなぐ ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~ 第4回
パリのポエトリーリーディング体験記、今回は下町・ベルヴィルから始まります。
目の前の商店の壁にベタベタと貼られたポスター。黒地に赤と白の文字で書かれているのは“GRAND SLAM 2014”そして”NATIRONAL & COUPE DU MONDE DE POESIE”つまり「詩の全国大会&ワールドカップ」。フランスはポエトリーリーディングが盛んらしい、と噂に聞いていました。だからこそパリに留学して、そいつを体験してやろうと思ったわけです。とはいえ詩のワールドカップ? そんなものがあるとは!
そもそものきっかけは、パリで偶然出会った知人のMさんが「私がステイしている家の近所でSLAMのポスター見かけたよ」と教えてくれたことでした。その場所がベルヴィル。アジア系をはじめとして移民が多く、多文化を感じるエリアです。壁という壁がグラフィティアートだらけだったりして、いわゆるお洒落なパリのイメージにはちと遠い。私はけっこう性に合うのですが。
坂道をさらに行くとあっちにもこっちにも同じポスターが貼ってあります。さらには道路の上にかかる横断幕も発見。その界隈のクラブに行くと、ライブのフライヤーに混じってこの“GRAND SLAM 2014”のプログラムが置いてあります。すごいぞ。パリに来てわずか2週間ほどで、こんなビッグイベントに遭遇するとは。あまりの興奮で体の奥がむずむずしてきました。何としてでも行かねば!
ということで6月2日(日)、ESPASE BELLVILLEという区民ホールのような建物にやってきました。プログラムによれば、この“GRAND SLAM 2014”は7日間にわたって行われるとのこと。この一週間のあいだに詩の朗読ワールドカップやフランス全国大会、それ以外にも様々な詩のイベントが催されるというわけです。まず初日の今日は”Grand Slam National des ecoles”つまりフランス全国大会・小学生の部。ロビーには先生に引率されて子供たちがわらわらと集まってきています。会場に入ると客席は250〜300席くらいでしょうか。どうやら学校対抗戦らしく、子供たちが学校ごとに着席して…ないな。応援用の手作りプラカードやカラフルな旗を振って、大騒ぎしております。おそるべし小学生パワー。
いざ大会がはじまってみると、パフォーマンスする子はみんな本当にしっかりしている! マイクの前に立つ姿も決まっているし、身振り手振りも交えて堂々のパフォーマンス。もちろんフランス語なので私は全く内容わからないのですが…。朗読がおわるごとに、客席にいる5人の大人がそれぞれ10点満点で採点します。点数が読み上げられるたびに客席の応援団は歓声をあげたり、悔しがったり大忙しです。
翌日は同じ会場で学生の部の決勝大会 “Slam National des collèges et lycées” を観ました。個人戦だけじゃなくグループ戦もあります。それにしてもさすが「詩の本場」フランスというべきか、小学校ぐるみでポエトリーリーディングに取り組んでいたり、小さい頃から詩に親しんでいるんだなあ。これはいよいよ「詩の朗読ワールドカップ」が楽しみになってきました。プログラムによれば、学生大会のあと別会場で「詩のワールドカップ」開会式があるとのこと。とりあえず行ってみることにしましょう。
開会式会場は“Mairie du 20e“ つまりパリ20区の区役所。たしかに立派な建物です。円柱の間のアーチをくぐって階段を上ると、小さなエントランスホールがありました。そこに集まっているのは各国の若者たち20人ほど。バックパック背負った長髪くん、細面の文学好きっぽい男子、スキンヘッド女子、オシャレにスカーフ巻いたアフリカ系青年…なるほどこれが世界大会の出場者たちか! みんな20代くらいでしょうか。わりと好き勝手に床に座っています。自由だなあ。テレビカメラも来ていますが、その場にいるのはみんな明らかに関係者。私ひとり部外者という感じなのですが、特に注意もされないのをいいことに、ちゃっかりその場で見学することにしました。
やがて開会式。まずは区長さんが開会の挨拶をはじめたのですが、ん? その演台のわきで妙に目立っているオヤジがひとり。“GRAND SLAM 2014”のTシャツを着ているから大会関係者と思われますが、ヒョウ柄のパンツに赤い紐のスニーカー、そして蛍光グリーンのベスト、刈り上げ頭。口をもぐもぐさせていると思ったら、区長さんがスピーチするのを見ながらフランスパンかじっています。なにこのひと、怪しすぎる! なんとそれが“GRAND SLAM 2014”主催者、Pilote(ピロット)氏なのでした。うーむ、強烈。
しかし彼が主催者ならば、彼に直撃してみれば大会のことが詳しくわかるかも。ということで、ポエトリースラムW杯1回戦の開場前、ロビーで準備をしているPilote氏に声をかけてみることにしました。えーと、まずなんて言えばいいんだ?
Je suis japonais. Je faire Slam à Tokyo. Je suis très surprise…
私は日本人です。東京でポエトリーリーディングをやってます。すごく驚いているんですけど…
私がなんともたどたどしいフランス語で語るのを、表情変えずに聞いていたPilote氏ですが、急に口を開いて
「じゃあここでSLAMやってみろ」
え? 今ここで? そりゃまあ開場前のロビーには誰もいないので緊張もないですが。それでは、ということで数日前にDOWN TOWN CAFÉのオープンステージで披露した短い朗読をやってみせることに。やたらと噛んでしまったけど、Pilote氏は気づいていたかどうか…。無表情のまま聞いていたかと思うと、こう告げたのでした。
「よし。お前、前座として出ろ」
え? ええええ!!??
というところで、続きます!
(村田活彦/駿河台出版社 web surugadai selection より転載)
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