10頁「【小さき戦士のものがたり】」
それは海の向こう
晴れ渡る空の果てにあるような
時折訪れる嵐の中を射貫く灯台の光のようなひとときだった
理由も否定もいらない場所が
不思議と居心地がよかった
突然の嵐のような訪れにも
その場所は弱弱しい明かりで出迎えてくれた
けれども消えない明かりは 目印みたいで
泣きながら眠ることと温かな布団と
すぎゆく時間が静かに途方もない悲しみと怒りを包んでいく
「なんでわたしはこんな目にあわなくちゃいけないんだろう」
「なんで産んじゃったんだろう」
その独り言は もはや独りで納まることがなくて
居場所が海の中に消えていくようで
難破しないように 明かりを目指した
懐中電灯は頼りないけれど確かに足元を照らしていた
小さな庭と 犬小屋と
ペペロンチーノとマルチーズ
小さな木のお家と小さな窓 青白い月
静けさは美しい
心休まる空間は確かにこの世の中にあるらしい
座布団が一枚 真っ青なクッションがひとつ
わたしだけの空間
小さな窓の向こうに琵琶の木の葉 水色の空
私が嵐なのか
それとも嵐が見えない場所から訪れたのか
分からない
あなたは子供ではなく小さき人
「大丈夫」という言葉 背中を優しく叩く手
その言葉は完全さと永遠さを伴って世界を一瞬で明るく包んだ
視界を一気に照らし出したあの煌めきは
この世界に信じていいものがあるという事実だったのかもしれない
完全にどこまでも限りなく永遠に
気が済むまで覗き込んだ瞳の中で
私は悲しみではない一つの光を見つけた
生きていける確信も
生きて行く安堵も
今となっては思い出せない霧の中の
薄いベールの向こう側にある全てが
かろうじて私をここまで生き延びさせている
あの時小さな手が守ったものは
今の私であってつまり未来で 私の世界の全てだった
何を失ったとしても決して失われないものがある
残ったものが 確かな意味で
この気持ちに関係なんてない
悲しみはいらない 最後の日からずっと
あれは悲しみが終わった日だったのだ
離れたことは一度もない 体の中に息づいている
それは海の向こう
晴れ渡る空の果てにあるような
決して消えることのない光が世界を照らしている
あの家の庭の青い月の下で
真っ青な空の下で琵琶の木のそばで
誇り高く「小さき人」とともに
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