嶋田さくらこ「やさしいぴあの」

ある時ふと思う
そうだ、万葉集を読もう

――そうして

嶋田さくらこ氏の「やさしいぴあの」がツイッターで目に飛び込んだ
――短歌

万葉集で読まれていたあの歌が 今もこうして カタチを変えて 読まれている
不思議に思う「やさしいぴあの」を探ってみる。

――通じるものが、あったのかもしれない

吸い込まれるように、手に取った。
手に吸い付くように 心に馴染んだ。

短歌が嫌いだった

あんな窮屈な世界にいたら 窒息死してしまうと思っていた
狭い部屋から広い空を眺めるように

でも、ここはおもちゃ箱のようで
キラキラしたものがいっぱい詰まっていた

狭い中で広がるそれは
小さくても空みたいに広い 宇宙みたいな場所だった

こんな世界があるのかと
よし 自分も短歌を書こう

――とは ならなかったけど

あの出会いがなかったら、それに続く数々の短歌の本にも
きっと 出会わなかったと思うと

最初に取ったのが、やさしいぴあので よかったと 思う

やさしいぴあのは きっと とても小さい
ハーモニカのようで でも、きっと 奏でたら

音はどこまでも飛んでいく 蝶々みたい

その声はどこから聞こえたのだろう

ずっと遠くの声に耳を澄ませていた
今よりも月がもっと近くにあって どんなに離れていても 愛しかった頃の歌

無くてきたもの 零してきたものが ここにあったのかもしれない
辿り着いたのは ずっと遠い場所

なのにどこか懐かしい風景が 重なった場所

心のどこかで耳を塞いでいた
嫌いだったわけじゃない ただ―近づき方が分からなかっただけ

それはやさしいぴあの 音色は風のようで 光のような 雨となって零れていく道の彼方

すくいとっても失っていくことは止めることはできない

でも流れて 繋いで 辿り着いた場所から それは続いていくもの

どこかで目を閉じていたのかもしれない

見えた景色は知らないはずなのに どこか知っている気がした

決して触れられない場所なのに それは足元の花のように傍にあったから

音色に耳を澄ませて 新しい風が吹く 陽が射して 花を一片摘んで 吹けば風が舞い
それは踊るように揺れながら 青空に消えていく
どうしてずっと忘れていたのだろう
空は思っていたよりもずっと―――広かったということに

聞こえた歌はどれも煌めいて 耳を澄ませば風景のようで
指の隙間から零れ落ちても それは見えない場所に染み込んでいく

それはどこかで捨てた夢だったのかもしれない ぴあのはやさしく響く
目には見えない場所で 遠くの月のような場所で
どんなに離れていても 愛しかった頃の歌を――奏で続けている

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