それがそこにあるということ「星の歌」10
after
森を見渡せば 一面の緑の海原のようで
風が吹けば海の波のようにうねり そよぎ 小波のように揺れた
雲は刻々と形を変え 空の色は変わっていく
それでも山だけは何も変わることなくそこにあり続けた
鳥は風に乗り 石は鳥に乗り 風は葉を運んだ
励ますように 鳥が迷った時は石が助言をした
石が判断できない時は風に乗る葉が先を示した
山に登ればきっとあの星に届く 石も鳥もそう思っていた
でもそれは叶わなかった
頂きから見上げてもなお その星は彼方にあったのだから
星はもう導くことなく 佇むように そこに瞬いていた
その光からは何も行方を見出せなかった
鳥と石はあの星には決して辿り着けないことを知った
陽の光が散らばる海のように 星の光が散りばめられた夜を見上げて
あとは降りるだけだった
星のかわりに道案内をするかのように 太陽が空を昇る
空が青に染まる 海のように
夜と朝の境目を繋ぐように 七色の道が空に架かっていた
かつて目指した虹に鳥は向かう
けれどもどれほど近づこうとしても
辿り着くことはできなかった
before
10
森を越え 谷を越え 山を越え
鳥は風に乗り 石は鳥に乗り 風は葉を運んだ
その先の何かを求めて
風は葉をつれて運んでいく
誘うように
星は鳥を導いてそこに瞬く
励ますように
鳥が迷った時は石が助言をした
石が判断できない時は風に乗る葉が先を示した
こうして三者の旅は進んでいた
川のせせらぎが聞こえる
それはどこかで聞いた音
鳥の歌が聞こえる
初めて聞く音
葉の笑い声が聞こえる
かつて当たり前だった音
鳥は空を見た
虹が架かっていた
―そうだ…
―思い出した―
あの虹に乗りたかったんだ…
鳥は体を起こそうとした
でも―その体は動かなかった…
分かっていた
ずっと無理をしていた
でもあの星に近づきたくて
止まったらずっと遠くに行ってしまいそうで
鳥は止まることができなかった
嘴から零れて石は地面に落ちて
鳥を見上げた
―どうしたの…
力なく横たわる鳥が
薄く目を開けていた
鳥に何とか手を差し伸べたいのに
石には手足がなかった
だからただ見守るしか―できなかった
空を見渡せる場所で
羽ばたけば虹に届きそうな場所で
鳥は力尽きた
あんなに近くにあるのに―
鳥は目を瞑った
――でも
この一生に後悔はない
君のおかげでここまで来られたから
――ありがとう
その歌が最期だった
石はただ黙ってそこに立ちつくしていた
一歩も動くことなく―そこにいた
葉が赤く染まり 散り やがて雪が降った
どれも初めてのことだった
雪の形はまるで宝石のようで
雨は雲から零れる透明な滴で
雨を通して向こう側で見えた
雷は空の慟哭のようで
嘆きや悲しみを思わせた
すぐ傍を川が流れていた
葉がひらひらとやってきた
鳥のいた場所に落ちる
その上を雪が積もり埋めていく
その葉は ところどころちぎれて ばらばらになりそうだった
この旅も―もうここで終わりみたいだ…葉は息を零すように言った
鳥はどこに行くの
石は尋ねた
空の星になるんだよ
葉は途切れ途切れに答える
いなくなってしまうの
石はまた尋ねた
葉は言う
見えているものが全てじゃないんだ―と
石は最後に聞く
君はどこに行くの
地面に眠って また朝日を待つよ
そうして石はとつとつと
自分の思いを語った
ずっと星になりたかったことを
あんなふうに輝きたかったことを
そして葉は―笑って
言った
―もう輝いているよ―
どういう意味なの
石が聞いても葉は答えることはなかった
葉は鳥と共に地面に眠りについた
寒かった
雪ではなくて 心が
重かった
雪ではなくて 心が
また――独り
そう思って
空を見上げた時だった
そして
遠くに星を見た
あの星のようになりたいと思っていた
でも先に星になったのは鳥の方だった
星の紡ぐ形が鳥を成した
地面に埋もれたかつての友人が
空に眠るのだとようやく知った
石は空に鳥の姿を見た
木々に葉の姿を見た
緩やかな時の中で
石は哲学者のように
黙って地面に座り込んでいた
―もう輝いているよ―
その意味が分からなかった
だから
ずっと空を見ていた
星が教えてくれる気がしたから
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