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よく休むことは、よく働くこと

夫が先週、“昼休憩”なるシステムを導入していた。

事の発端はある日のこと。

お昼過ぎ、私がいつものように娘とふたりきり、自宅で過ごしていると、ドアの方からガチャガチャ、と開ける音。

むむ?と思っているうちに、夫の声がした。

夫:「ただいまー」

私:「あれ? おかえりー」

夫の職場は家から歩いて5分とかからない。これまでも仕事中、ちょっとした用事で突然家に戻ってくることは時折あった。

私:「どしたー? 忘れ物?」

夫:「いや、ちょっと休もうかと思って」

私:「ほー。めずらしいね。何かあったわけじゃないよね?」

夫:「いやいや、何も。なんか、やることがたくさんありすぎて……、今の状態だと整理しきれずに効率悪いから、いったん休んで回復しようかと」

私:「そっかー、休みな休みな〜」

夫:「うんー」

そのまま、生後5ヵ月の娘の横にごろりと横になり、身を寄せて娘の顔をのぞきこみ、にこにこ(ニヤニヤ)と穏やかな笑みを浮かべる夫。

30分ほどだろうか、愛娘の表情を見ながらうとうと安らいで、サッと職場に戻っていった。

そんな感じで突如気まぐれに導入された、夫の昼休憩。

平日の昼間、仕事の合間にこういう時間があるのは、なんだかよいものだ。

*  *  *

ここで念のために補足しておくと、夫は仲間たちと経営する会社で働いており、区分としては一応“会社員”である。

ただ、各自に高い専門性があり、かなり自由度の高い組織なので、働き方のイメージとしてはフリーランスに近い。

仕事さえしっかりと進められれていれば、例えば平日に私用で休みを入れるなど、日々のライフスタイルは各自に委ねられている、というわけだ(その分、他の日にがんばるわけだけど)。

noterさんには組織にとらわれず自由な働き方をしている人々が多くいらっしゃると思うので、比較的イメージしていただきやすいだろう。

*  *  *

その日の夜、普段は食事中にあまり自分から話題をふらない夫が、珍しく改めて「昼休憩、よかったわ」と言い出した。

私:「へぇ〜。効率あがった?」

夫:「うん。いろいろやることがありすぎて、ちゃんと優先度をつけてから手をつけないといけないとわかってたんだけど、頭がぼーっとしててそれを整理する作業ができなくて。結局手がつけやすいものからやり始めちゃってて、こらアカンと。でも休憩したらちゃんと整理できて、結果効率もあがったよね」

加えて、しっかり休んだ分、会社に帰ったら限られた時間内で集中して作業しなければという気持ちもプラスに働く。

こまめな休憩もよいが、ある程度まとまってしっかりと休むことで、パフォーマンスがあがることは大いにあるだろう。

何事もメリハリは大事。

*  *  *

この一連のやりとりのなかで、私はふと過去の記憶の一片を思い出していた。

それは独身時代、外国の田舎をファームステイしながら旅していたときのこと。

当時ステイさせてもらっていたある農場では、朝8時半くらいから2時間半ほど働き、午前10時半頃には必ず、「モーニングティー」なる時間があった。

時間が近づくとホストファザーがトラクターにまたがって「モーニンティ!」と呼びに来てくれたりして、作業の途中でもいったん家へ戻り、他のワーカーも含め、皆でモーニングティーをいただくのだ。

紅茶と、クッキーを数枚と。

テラスの席に座って庭を見つつ、お茶を囲んで談笑しながら、体を休め、心もリフレッシュする。時間は15分とか20分とか、そのくらいだっただろうか。

たったそれだけのことが、その後、ランチタイムまでの作業をまたがんばろう、という気にさせ、効率もグッとあがるのだから不思議なもの。

もしそのタイミングで休憩がなければ、無意識にでも、体力を温存するために朝から半分くらいの力でダラダラと作業して、それなのにお昼には体も心もぐったり疲れ果てていただろう。

こまめに各自が休憩をとっても、このメリハリ感にはつながらない。「必ず毎日」「全員が一緒に」ある程度まとまって休憩をとる、という習慣化もよいポイントだったと思う。

モーニングティが習慣化されていることで、ちょっと疲れてきたけれど、10時半にはお茶が飲めてしっかり休憩できるからとりあえずそこまでまずがんばろう!と、高いパフォーマンスで作業するようになるからだ。

*  *  *

「よく休むことは、よく働くことだよ」。

このエッセイのタイトルにも置いたこの言葉は、確かファームステイ中、どこかのホストマザーかホストファザーがくれた言葉だったと思う。

ちなみに、ここでいう「よく」は頻度が高いの意味ではなくて、「じょうずに」の意味。

上手に休むことは、上手に働くこと、だ。

休むときは、しっかりと休む。疲れきったから休むのではなくて、疲れすぎないうちに、次の作業に向けて上手に休む。

この教えは、「モーニンティ!」の掛け声とともに、当時の学びとしてしかと心に刻まれている。

*  *  *

気まぐれに導入された夫の昼休憩は、数日間続いていたが、夫曰く「肩にずしりとのしかかっていた大きなプレゼン」の件がひと段落したことで、いったん今はなくなっている。

そう、いろいろ立て込んでいるときこそ、パンクする前に、「よく休む」ことが大切だし、必要だ。

これからも、ずしり、と肩にのしかかるものを感じたときは、積極的に導入したらいい。

自営業じゃなくとも、会社員でも、徒歩圏通勤で自宅で家族と昼休憩、みたいなライフスタイルが、日本でももっと普通のことになればいいのになぁ。

ぼんやりとそんなことに思い巡らせながら、子育ての合間、ひとり紅茶をすする。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。