とげ抜き夫
ある夕刻のこと。
その日は夫もわたしも疲れていて、なんだか体調もいまいちだった。双方ともに気分はロー。リビングにはどうしてもあんまりハッピーじゃない空気が漂っている。
なんていうのだろう、「ぴりぴりギスギスの一歩手前」みたいなあの感じ。
いつもなら笑ってやりとりできるようなひとことも、今日は妙にひっかかってけんかになってしまいそうな。その空気自体がまた落ち着かなくて、さらにどよんと気が滅入る。
そんなとき、いつもと変わらぬ子の空気感は大いなる救いだ。空気を読まないひとの存在は、太陽みたいなものである。
その日も3歳娘というまばゆい太陽を中心にしながら、表面上はおだやかに、しゅくしゅくといつもどおりの食事がすすんだ。
娘:「もっと、ちょーだい!」
私:「はいはいー。よく食べるねえ。ちゃんともぐもぐしてねー」。
いつもと変わらぬことばを、口先だけでつるつるとなぞる。よくないなあと思いつつ、ムスッと黙りこんでいるよりはよかろう、と上っ面の会話をしてしまう。「親」の仮面をかぶっているだけの自分。はあ、なんだかなあ。
*
表面的にはいつもどおりの、水面下にはどんよりピリピリを内包した食事を終える。つかのま、子とのたわむれタイム。
子をひざに乗せて絵本を読んでいるとき、ふとした拍子に手の甲を木製椅子にズッ、と強くこすりつけてしまった。瞬間「チクッ」と痛みを感じる。
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