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むすめ2歳の入院日記(13)術後10日目

9月7日(土)くもり

6:30ごろ起床。やっぱり今日も利尿剤の影響か夜中の尿が多くちょっと漏れてしまっているもよう。オヤスミマン、家に置いてきちゃったなあ。ばあばと交代してもらうときに買い出しに行こうかな。とりあえず今夜は少し持参しているワンサイズ大きめのオムツにしよう、と今さら思う(早く気づけばよかった)。

朝食に、入院中には初の納豆が出た。納豆が大好物の娘、見慣れないパッケージの納豆に最初はきょとんとしていたが、パッケージを開けてかき混ぜ始めたら思わず「うふふ」と声を出して笑顔。いつもは途中で遊びはじめてなかなか進まない白飯も、ひさびさの納豆ごはんパワーでもちろん完食。嬉しい。毎朝ご飯、希望制で納豆つけてくれたらいいのになあと妄想する。

朝の検温で看護師さんに今日の予定を確認する。本日は体重も増えていなかったので、レントゲン撮影もなしとのこと。おやつは半冷凍のシャリシャリ桃ゼリー。「おいしぃ」と笑顔の娘を見ながら、今日は穏やかな日になりそうだなと、この時点では思っていた。

よし、あとでプレイルーム遊びに行こうねと娘に話し、娘もニコニコとうなづく。そのころアナウンスがあり、外科医の回診(傷口の経過チェック)があるので術後の患者は部屋で待機するようにと言われる。お医者さんにお傷みてもらったら、「あそぶおへや」に行こうねと約束して待っていた。

そして外科医の回診。

以前、「もしかしたらここだけちょっと、縫い直しになるかもしれません。まあちょっとようす見ていきましょう」と言われていた、3本目のドレーンを抜いた穴の箇所で医師の目が止まる。「ちょっとここ、ぶよぶよしてますね」と言われ、貼ってあった透明シートをはがしたらまったく穴はふさがっていなくて、丸く穴が抜けたままの状態が、わたしの目からも確認できた。「あー、これ壊死しちゃってるな。縫い直しですね」と言われる。ああ。

昨日もおとといもその前も、1日1回は傷口チェックで日替わりの医師が見ているはずなのになあと、突然感がすごい。昨日まではとくにコメントすらなく「順調ですね」とスルーされていたなあ。また行き場のないもやもやが募るが、しかたない。このタイミングで手遅れにならなくてまだよかったと思おう……。

とはいえ前夜は「経過はいたって順調なので来週中には退院」と言われていたし、あとは回復してゆくだけだなと思っていただけに、スコーンとまた落とされて、気持ちのアップダウンに疲れ。何より、縫い直しには鎮静剤を点滴で入れることが必要で、そのルートをとらなければならない。つまりまた針をささなくてはいけない。せっかく数日前にその針が抜けて自由の身になって安心していたというのに、また点滴とらなくちゃいけないのだなあ。

いまから点滴とりますねーと言われるが「プレイルームでちょっと遊ぶすきありますか?」と聞くと「今すぐにではないので、どうぞー」と言われ、ひとまず少しだけでも、とプレイルームへ。約束してたからね。ああ。でも今日はこのあと痛い処置が待ってることになっちゃったなあ。ごめんよ。と思いながら、束の間、おままごとを楽しむ。

「準備できました」と言われ、処置室へ。入り口で看護師さんに「お預かりしますね」と言われるので立ち会えない。部屋で待機していたほうがいいのか聞くと、処置室前で待機するように言われるので、その場で待つ。中からはやはりずっと「まま!まま!まま!」の声。ママが現れないことを悟ってからはひたすら「いや!いや!も、いや!もいや!」のリピートに変わる。

どの看護師さんからもまず「力、強い!」と言われる娘。きっと中で全力で抵抗して、それをまた全力で押さえつけられているのだろうなと想像できる。それはしかたないから、早く終わらせて……と願うのだが、待てども待てども、「いや!いやー!いやー!」の叫び声がずっとつづくばかりで出てこない。まずは点滴とるだけだと思っていたけれど、もしや縫う処置も一緒にということだったのかな、と思うくらいに長かった。

ようやく出てきた娘、聞けばやはりルートをとっただけで縫う処置はまた後ほど、という。かかった時間を考えると、血管にうまく通らず、またグリグリと探されて相当痛い思いをしたに違いない……。

前夜に「だんだん元気になってきてるからね、来週にはおうち帰れるかもしれないって」という話を娘にもしていた。それだけに、ここに来てまた手をぐるぐる巻きにされ、「まだまだ帰れない」ということを悟った娘、ふたたびママ不信に陥った目つき。朝のきらきらした笑顔からは一点、呆然とした目で世界を見つめている。

ままなんて、わたしがいたいことされてるとき、いつもいないじゃない。ひとりぼっちにするじゃない。わたしなんていつもひとりだけでいたいことも、くるしいこともしてるんだよ。ままのうそつき。まま、いや。きらい。もう、ままのいうことなんてしんじない。

PICUで完全に信用を失った背景もあり、ここ数日で回復してきたはずの信用も、一瞬で地に落ちる。

ちょうどそのころ、2日ぶりにばあば(私の母)がやってきた。体調が回復したばあばが今日からようやく付き添いヘルプに復帰してくれるのだ。ありがたい。部屋に帰って、処置の連絡がくるのを待つ。ママ不信のため、ばあばに相手をしてもらって過ごす。

処置は「昼前には」と言われていたが、昼食が運ばれてきてしばらくしてもなかなか呼びには来ず。処置があるため「水分も食事もストップでおねがいします」と言われていたので、運ばれてきた昼食も食べられず。ああ、また忘れられていないといいけどなあ、そろそろ確認しにいこうか……とそわそわしていたころ、ようやく呼び出しあり。抱っこで処置室へ向かうも、結局入り口できっぱりと「お預かりしますね」と言われてしまう。予想はしていたけども。

ふたたび「いやー!いやーー!!」と絶叫の娘。数分後には鎮静剤が聞いてきたのか静かになった。部屋の前で母とばあばはただただ待つ。

先にもまして、時間がものすごく長く感じる。そして鎮静剤が効いているはずなのに、処置の途中で「まま、まま、まま」「いや、いやいや!」という声が、断続的に聞こえてくるのがとても気になる。鎮静剤、ちゃんと効いているのだろうか。どうか痛い思いをしていませんように。そう願うことしかできない自分はひどく惨めで情けなくて、なんだか気持ちの行き場もない。

どれくらい待ったのだろう。ようやく処置を終えて娘が看護師さんに抱っこされて出てきた。部屋までそのまま運んでもらい、ベッドに寝かせてもらう。「最後の鎮静剤を使ったのが●時●分なので、それから最低1時間はあけて、まずは水分から気をつけてとらせてください」との指示。

看護師さんが去って「おつかれさま。がんばったねえ」と言って娘のそばに寄ると、ベッドのシーツに血が薄まった水のような赤っぽい染み。娘の点滴をとっている方の手を見ると、ガーゼがその赤っぽい色で染まってる……。うわ、これなんか漏れてるのではと、ナースコールを押して来てもらう。

案の定、漏れてますねということでいったんまた処置室へ。さっきまでいやいや言っていた処置室へほんの数分で出戻った娘、また恐怖におびえる。待機の間は横で手を握って待たせてもらえたが、いざ処置をするタイミングでは結局「じゃあお母さん、お預かりしますね」と言われ退室。瞬間、「いぎゃあああ!(いや)」と娘。そりゃそうだ。でもしかたがないらしい。

しばらくまた外で待つ。

さっき処置中にうわごとで「いや、いや!」と言っていたのも、もしかして点滴部分に不備があって鎮静剤がきちんと効いていなかったとか、そういうこともあるのではないか……? いったん終わったと言われて部屋に戻ってすぐに処置室に出戻りという経緯で、もんもんとした気持ちが募る。長期入院の常連さんたちのいろいろな不満や愚痴を「うわあ」と思っていたけれど、そうなっていく気持ちをだんだん理解できるようになってきてしまった。

しばらくして、抱っこされて出てきた娘。「結局、おそらくもう必要ないとのことで、抜きました〜」と。たしかに、さっきはまだ点滴をとっていた手の部分の針は抜かれ、自由の手になっている。じゃあさっき残していたのは一体なんでだったんだろう。念のためかな。今後また新たな処置が必要にならないことを願いつつ、ひとまずは針も抜けて結果オーライか。

部屋へ帰る。まだごはんや水分はとれないし、鎮静剤が入っているから寝るだろうと思い、添い寝で絵本を読んでみるも、寝る気配はない。結局わたしやばあばに絵本を読んでもらっているうちに、1時間経過。まずはお茶を飲ませ、ごはん食べる?と聞くと「食べる」というので食事に。

ばあばが復帰してくれたので、お昼ごはんはばあばにお願いする。鎮静剤明けとは思えないほど、普通にパクパクと食べている。しばらくそのようすを見守って、付き添いをばあばに一度交代してもらい、わたしはマクドナルド・ハウスへ。

洗濯物をまわし、日記を書く。

夕飯前に病室へ戻ると、娘は寝ていた。最近この時間に眠るパターンができちゃっているなあ。でもお昼ご飯後は寝たがらないのでまあ、今はこれでいいや。

付き添いを交代し、ばあばは宿泊施設の方へ。わたしは娘に夕飯を食べさせる。ごはんを食べるスピードは途中から一気に落ちて、ずっともぐもぐしながらごはんつぶで遊びだす。「もうごちそうさま、しようか?」と聞くと「まだ、たべる」と言う。ほんとうにまだ食べるのかなあと思いながら、でも少しでも体力つけてほしいしと眠くなりながらも付き合っていたら、最終的にはほぼ完食。すごいじゃないか。途中、疑ってごめん。

病棟内をちょっとお散歩して、デイルームで絵本を読んで、お部屋に戻ってはみがきして。絵本を読んで、夜の検温をしてもらって、また絵本を読んで、添い寝でいつのまにかふたりとも寝ていた。

深夜12時ごろ、わたしが起きて付き添い用のソファベッドに移動。そこでしばらく寝ていたら、巡回に来た看護師さんが隣のベッドに「眠れないの?」と声をかけたので思わずわたしも「あ、起きてます?」と声をかける。暗闇の中で泣きもせずにただ目が冴えて眠れずにいたらしい。さっき移動したとき、起こしちゃったかな。

のそのそと再び娘のベッドへあがり、添い寝。すぐには眠る気配がなかったが、子守唄を何曲か歌っているうちに、またふたりとも寝落ち。

(つづく)

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小中ぽこ(ぽこねん)
自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。