なんてことない、娘の観察日記
朝おきてふと隣をみると、1歳の娘がこめかみあたりに玉の汗をかいていた。
あらあら、暑かったか。そう思いながらタオルを手にとり、拭おうとする手前で、ちょっと手を止める。じっと、玉の汗を見つめる。
うろこ雲のように、ひとつひとつ粒になって娘の肌にのる、きらきら輝く玉の汗。それはなんだか崇高なアート作品のようで、しばし観察してしまう。
いやそれにしても、玉の汗って、ほんとうにかくんだなぁと感動した。
* * *
額の汗をタオルでとんとんと、やさしく吸収させる。まったく動じずにすぅすぅとねむりつづける無防備な寝顔をみて、思わずにやりとしてしまう。
両足は、ひざを曲げた状態でパッカーンと、気持ちいいほどの観音開き。
最近は足を伸ばして寝ることも多いから、ひさびさに見るその開脚っぷりが、なんだかすでになつかしい。
1歳5ヵ月を過ぎてもうだいぶ大きくなった娘の、けれどその姿勢には赤ちゃん時代のなごりを感じて、ふふふと思う。
成長が嬉しくもあり、まだまだかわいい赤ちゃんでいてほしいという気持ちもあり、なんともいえず目の前の姿勢が愛しくて、ふふふ。
* * *
昨夜は夜中にもぞもぞ。
暗闇で「んっ、んっ……」と言っていたから、あらもしかして、と思ったら予想通りオムツの中にうんちをしていた。しかも大量。
とても眠たいのに、おしりが気持ち悪くて寝るに寝られず「う、う」と言いながらぐるぐる。オムツ替えのために部屋を明るくしたら「眠いのに〜!」と言わんばかりに目を閉じたまま抗議の意をこめて泣く。
朝、あらためて見てみたら、娘のおなかがきれいにへっこんでいた。
びっくりするほど、よく食べる娘。昨夜の夕飯後にははちきれんばかり、まるで臨月の妊婦さんのようにパッツパツに膨らんでいたお腹が、排泄後にはすとん!と凹んでいたのだ。
「おなかへっこんだね!」「ほんとだー!!」「こんな細かったのか!」と朝から盛り上がる父と母。
* * *
なんてことのないことばかりだけれど、わたしは知っている。
こういう、なんてことのない日々のことは、どんどん忘れてゆくんだ。
一方で、ことばにしても、写真をとっても、ムービーをとっても、そのすべてを救いきれない、ということも知っている。
むしろ、残した記録は読み返したり見返したりするぶん、記録していないことの記憶はどんどん薄れて忘れてゆく、ということもある。
それでも、刻々と変わりゆく娘の日々のことを、なんとか少しでも臨場感をもって残しておきたくて、ムービーをとる。
息をひそめて寝顔に向けてシャッターを切ったり、笑顔をとらえたくて一生懸命笑わせながら連写したりした、そんなときの空気感をまるごと残したくて、写真をとる。
そしていま感じている、自分の脳内にあるこの温度感を、少しでも残しておきたくて、わたしは文章を書くのだろう。