そうだ、焼肉食べよう
なんだか疲れてしまったので、今日はゆるっとしたことが書きたい気分だ。
くわしくはまた今度書けたらと思うが、昨日は娘のこども病院通院日でいろいろとあり、すこし行き場のない気持ちを抱えていた。
頭のなかでは冷静に理解して、あとは落ち着いて行動していくのみ、と思う自分もいるのだが、実際はいますぐには気持ちが追いついていかなくてぐるぐるする、そんな感じ。
その日は朝起きて娘の弁当を用意し、1時間の道のりをかけて9時には病院へ。多くの患者が待つ中で私たちもひたすら待ち、計測やら採血やら、眠り薬を飲んでの心臓エコーやらをはさみつつ、3つの科でそれぞれ診察し、1日がかりの通院。帰るころにはへとへとである。
帰り道、夫が運転する車で、わたしは後部座席で意識を遠くへ飛ばしながらぼーっと外を眺めていた。
ふと、焼肉屋の看板が目に入る。瞬間、わたしは言っていた。
「あ、焼肉食べたい!」
* * *
なんだか重たい書き出しだったが、なんてことはない。あとはただ焼肉を食べるだけのダラダラした日記なので安心して読んでいただきたい。
やっぱりこういうときは、食べたいものを食べるにかぎる。何かこう、カチッ!とスイッチを切り替えてくれるようなわかりやすい物事が必要なのだ。
車内で何の脈絡もなく突然発せられた、妻の「焼肉食べたい!」の声に、「お、いいね、今日行っちゃう?」と反応してくれる夫。好きだ。
かくして私たちは焼肉へ行くことにした。
離乳食を卒業しかけで、ふつうのご飯が少しずつ食べられるようになってきた過渡期の娘と、きちんとした「外食」をするのはこれが初めて。
果たして焼肉屋に、我が子の食べられるものがあるのか。家ではごはんの途中で必ず皿を投げ飛ばして暴れる娘とともに、外食ミッションを無事に完了できるのか。そもそも、悠長に肉を焼いているひまなんてあるのか。
我が家史上、前人未到、わくわくどきどきの、焼肉エンターテインメントが幕を開けた。
* * *
いったん自宅へ帰って態勢を整えてから向かったのは、“健康焼肉”をうたう焼肉店。
妊婦のときに「禁煙 焼肉」で検索したのを機に見つけたお店だ。
予定日を過ぎてもなかなか生まれず、面白半分にジンクスを試していたとき、「焼肉を食べる」ジンクスを試すために(ただの言い訳)、大きなおなかを抱えながら行ったのだ。
“健康焼肉”をうたっているだけあって、お肉が厳選されていて新鮮なのはもちろん、野菜もしっかりと厚みがあり、おいしかった記憶がある。化学調味料無添加を公言しているのも、子連れにはわかりやすく嬉しい。
素材にこだわっているぶんお値段も安くはないが、野菜にはうるさい我が娘も、ここならばきっと満足してくれるに違いない…。どうか、「うぎゃーー!!」と暴れてちゃぶ台をひっくり返したり、隣のお客さんに水やタレをひっかけたりせず、食事がコンプリートできますように…。
そんな思いを抱えながら、いざ入店。
* * *
座敷席には大変ありがたいことにこども用の豆イスがあった。到着早々、ちょこんと自分専用の椅子に腰かけてまんざらでもなさそうな娘。
こういう「自分のために用意されたもの」感、こどもはちゃんと感じとるんだよなぁ。
初めて見る店内に、興味津々でキョロキョロしている。
そのすきに、父母はメニューに目を走らせる。とりあえず、娘が食べられそうな気配がするものから順にメニューをピックアップして、注文。
周囲の観察を続けていた娘は、後ろにいるグループの方々をふりかえって、じろじろ。ああすいません、と声をかけると、いえいえと笑ってもらえてホッとする。
麦茶をコップに注ぐと、目を離したすきにさっそく、じゃばっ。ぜんぶひっくり返す。ズボンはお茶まみれ。いただいたおしぼりは一瞬で全滅。本人は悪気なく楽しそうだ。
* * *
まず運ばれてきたのは旬野菜のナムル。オクラ、人参、きゅうりそれぞれのナムルが、1枚のお皿に彩り美しく盛られている。
外食のナムルは娘にはしょっぱすぎるかな、と心配していたが、味見をしてみるとさすが”健康”をうたうだけあってほどよい味付け。家庭的な味わいにホッとする。
持参したハサミで細かくカットして、娘にもあげてみる。ぱくぱく食べる。皿に盛った量ではすぐに足りなそうにするので、このままでは他の品が来る前に食べ物がなくなって暴れだす…!と危険を察知し、「すいません、大ごはん先にひとつください!」とお願いする。
熱々のごはんを別の皿に少量とって冷まし、刻んだナムルも混ぜたりしながら、姫様のご機嫌を維持する。
娘へのごはんサーブを夫と交代しながら、傍らで大人はセンマイ刺しをつまむ。新鮮!コリッともサクッともつかぬ歯ざわりがたまらない。タレはあっさりポン酢と、酢味噌の2種。酢味噌も甘すぎずに爽やか。
くぅーっ、幸せだ。
* * *
わかめスープで場をつないでいると、お待ちかねの厚切り新鮮野菜たちが運ばれてきた。オリーブオイルを塗って、七輪に並べて焼いていく。
ズッキーニ、なす、とうもろこし、オクラ、人参、かぼちゃ、ピーマン。旬野菜や、娘の好きな野菜が多くて、思わず気持ちのなかでガッツポーズ。
とうもろこしさえ焼けてくれれば、これを握ってご機嫌タイムが少し確保できるはず…。そんな思いをいだきつつ、メラメラ燃えながら野菜奉行に徹する母と、娘の相手をしてくれる夫。
娘が大好きな「厚揚げ」が、メニューにあったのも救いだった。
アレルギ―持ちでもある娘、初めて離乳食を持参しない外食で、ちゃんと食べられるものがあるかと不安に思っていたが、とりあえずこのお店では食事という目的を完遂できそうだ。ホッ。
* * *
大人も合間で、しっかり肉を堪能する。
七輪の網の上で、じゅう…と静かに焼けゆく肉を見るだけですでにエンターテインメント感がある。豚トロは油が多いので、時折メラメラッ!とオレンジ色の炎が立ちのぼる。
まずはハラミ。ほどよい厚みがあって、ひと噛みすれば、じゅわっと肉汁が口の中に広がる。噛むほどにしっかりと肉の旨味が感じられて、幸せだ。
豚トロは網の上でしっかりと油を落として、少しカリッとしたころが好き。脂身もマイルドに甘みがあって、嫌な油っぽさがない。さっぱりだれでいただく。
カルビは、これぞ焼肉という安定感。上カルビじゃなくて普通のカルビをオーダーしたけれど、あれ?上カルビ頼んだっけ?と思うほど。歯でスッと切れるやわらかな肉質と、しっかりした赤身にほどよく入ったサシとのコラボレーション。美味しいお肉食べてる!という感じ。
娘にも、赤身をよく焼いて、小さくカットしてごはんとともにあげた。
むふふ、娘よ今日は特別じゃぞ。
おいしいものを前に、母はわかりやすくごきげんである。
* * *
なんだかいろいろと不安もあった娘との焼肉デビューだったが、終わってみれば最高に楽しいエンターテインメントであった。
新しい場所ということもあってか、家のように皿を投げ飛ばすことも奇跡的になく、不機嫌で泣きわめいてしまうということも今回はなかった。
隣のテーブルの麦茶に手を伸ばしたり、椅子のまま自分で後ろにずっずっと移動して他の方にぶつかりそうになったり、いろいろなトラブルの種はあったけれど、大事はなく食事をコンプリートできたのだ。
“はたから見れば小さな一歩ですが、我が家にとっては大きな一歩です…!”
そんな実況中継が脳内で再生される。
娘にとっても、普段のおうちのごはんとは違う、ちょっと特別な場所での特別なごはんは、楽しいひとコマになったのではないかしら。
* * *
帰り道、車のなかで夫と反省会。
私 「いやぁ、なんか、ほんとうにひさしぶりに、ちゃんとした外食ができたって感じするね!」
夫 「ねー!達成感ある」
私 「今回は、好きな野菜とか厚揚げとか、食べられるものが多かったのもよかったね。あと、座敷で豆イスがあったのもよかった。たぶんテーブル席のベビーチェアだったら、絶対途中で暴れて抱っこになってたね」
夫 「うんうん。ほどよく自分で動ける、ってのはいいんだろうなぁ」
私 「店選びは大事だけど、またやりたいね。食べられるものも増えてきたしね」
夫 「そうだねー」
子連れ外食の達成感に、気分が高揚する父と母。
外食はエンターテインメント、それを改めて思い知った夜だった。
それにしても。
「焼肉食べたい!」って、言ってみるものだなぁ。
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